時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』(稲田将人著)がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 今回からは、特別編として4回にわたり対談形式でお届けする。対談のゲストは、カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)の創業者、宗次徳二氏だ。宗次氏は「接客サービスをおろそかにして売上を追求しても、意味がない」と語る。その真意とは? 好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。

心の底から頭を下げて「ありがとうございました」を言い続けるのが経営トップの仕事宗次徳二氏(左)と稲田将人氏
撮影:石郷友仁

経営者に問われるのは、
心の中の獣(煩悩)を飼い慣らすこと

稲田将人(以下、稲田) 宗次さんの『独断』(プレジデント社)と『日本一の変人経営者』(ダイヤモンド社)を読ませていただき、まず印象をお伝えさせてください。私自身、経営者、特に創業者の方とのお付き合いは多いのですが、宗次さんの書は二冊とも、「内容として興味深く、経営者にとっての心得とノウハウの両面を伝えるという点でよくできているな!」という印象を持ちました。

宗次徳二(以下、宗次) そうですか。ありがとうございます。

稲田 事業を当てた創業者でも、多くの場合、その継続ができない。「これだったらむしろ当たらなかったほうが、結果的に周りに迷惑をかけなくて良かったかもしれない」と思えるケースも見かけます。ところが、宗次さんは会社を成長させ続け、一部上場にまで持っていき、しかも事業継承まできちんと行って53歳で経営の第一線を退かれた。なかなかできることではありません。

宗次 いえ、たまたまですよ。運が良かったのです。

稲田 私は、大学を出てから、最初に豊田自動織機の自動車工場に勤務しました。よって、自身の価値観のベースは完全にトヨタ式です。宗次さんの言葉に触れながら、このトヨタで脈々と流れている文化に近いというか、同じようなものを強く感じました。

宗次 そうですか。

稲田 今日はお話の中で、これから上をめざす方々、最初の花を開かせた経営者の方々、そんな皆さんのためになるお話が聞けたらと思います。

宗次 ただ、私の経営者人生をお話しすると、多くの方は「そんな経営者人生は、嫌だって」言いますね。とにかく、経営一途、仕事一途で、プライベートのことはほとんど顧みないような生活でしたので。

稲田 私が言うのも僭越なんですけど、宗次さんは煩悩にとらわれていないといいますか、煩悩をきちんと自分で飼い慣らしている感じがすごくするんですが……。

宗次 そうですね。私の場合は、経営以外をすべて拒否してきましたから。遊びたい、休みたい、いろんなところに顔を出したいとかね。そういうのをひたすら排除してきました。

稲田 喜びも、ストレス解消も、すべて仕事の中で完結するということですか?

宗次 ええ、その通りです。

稲田 これは私の考えなのですが、成功される方って、自我というか、心の中に飼っている「獣」をどう飼い慣らせるかがすごく重要だと思っています。宗次さんの場合は、そこがすごく見事なんです。本を読んで、そこを特に感じました。

宗次 やはり経営の目標がありますからね。単年度や中長期などの目標があると、経営者はそこに向かって行きますよね。1つの目標を達成したら、また次の目標が始まりますから、それの繰り返しです。

稲田 当たり前のようにおっしゃられますけど、その当たり前を徹底するって、とても難しいですよね。

宗次 そうですね。経営者には、いろんな誘惑がありますから。自分との戦いでもあるし、周りもそっとしておいてくれません。「ちょっとだけ会合に顔を出してください」とかね。私たちの時代はまだ良かったけど、今の若い経営者なんか、少し注目を集めると誘惑がたくさん来ると思うので、振り払うのは大変でしょうね。

稲田 「飲食で事業が上手くいくと、天下をとったような気になる」と言われた経営者の話を、以前耳にしたことがあります。

宗次 周りがもてはやしますからね。同業者が見学に来たり、取材の依頼がひっきりなしに来たりと。

稲田 それでも、もてはやされるとやっぱり嬉しいですよね?

宗次 まあ、それはね(笑)

稲田 悪い気はしないですよね。だけどそこを、アンカーを付けたがごとくに軸足をぶらさなかったのは、やっぱり宗次さんご自身の価値観によるものなんですか?

宗次 そうですね。やっぱり多くの人に関わってもらっていますからね。だから会社を成長させたいじゃないですか。やはり目標達成のためです。目標は、掲げたからには必達しないといけない。必達しようと思ったら、社員や幹部に頑張ってもらわないといけない。けれども、経営者自身が誰よりも頑張るんだ、と。その背中を見て、社員の2割か3割の人たちが本気になってついて来てくれる。あとの人には、給料分だけ仕事してもらえばいいっていう、そんな感じでしたね。

稲田 やはり、心の中の獣をしっかり飼い慣らしておられる印象を受けます。

宗次 私の場合、仕事、仕事、仕事。とにかく仕事を追い続けてきました。その代わり、友人もいません。趣味を通じての友人は一人もいませんからね。それが、逆に自慢なんですけど……。でも、ちょっと変わってますよね。