時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。
日本企業で「面従腹背」が起きがちな理由
日本企業で起きがちな「面従腹背」と、それを放置するトップマネジメントの是非が議論になることがあり、この点に少し触れておきます。
繰り返しになりますが、米国と日本の企業のトップのマネジメントスタイルは異なります。
マッキンゼー時代の私の先輩格にあたる方が、GEの日本法人に入社していました。GEではスタッフ部門の勤務が長くなるとキャリア上あまり良くないと言われているため、次の異動先をどこにすべきかを考えていた時の話です。
GE日本法人の会議が東京・六本木のANAホテルで行われていました。彼が休憩時間に手洗いにいくと、本社のCEOのジャック・ウェルチが入ってきて、続いて後にフィアットのCEOになる当時副会長のパオロ・フレスコが入ってきて、彼は二人に左右から挟まれてしまいました。
「君は何をやっているんだ」
「今は用を足しています」
から会話が始まり、二言三言、言葉をかわし、ジャック・ウェルチから、
「君は本社で仕事をしたほうがいい」
と言われて、米国本社への異動が決まったそうです。
結局、以後7年間、彼はジャック・ウェルチ直轄の経営企画部門で仕事をすることになります。
世界レベルでも指折りの規模の大企業のたたき上げのトップが、自身の判断とリスクでこの手の人事を行うのが、米国企業の「人治」マネジメントとその「イニシアティブ」を象徴しています。
果たして日本の大企業で、トイレで交わした二言三言で、部長クラスの異動、配属を即、決めることのできるトップ、つまり組織の動き方を的確にイメージできているトップがどれだけいるでしょうか。
米国式のマネジメントでは、トップは自分の発する指示の精度を高めるためにトップ直轄の本部組織、経営企画室や戦略機能、人事、財務・経理機能などを動かします。
誤解を恐れずに言えば、彼らはトップの顔色さえ見ながら、トップの意志に沿ってトップの業務を補完する機能です。言い換えればトップの24時間しかない1日の時間をより有効に使い、トップが「イニシアティブ」を発揮し、パフォーマンスを高めるためのサポート組織と言えます。
もし、トップと一体化して考えて、前向きに動くことができないような本部ならば、その任に非ずと、本来は即、解体してもいい位置づけなのです。多くの日本企業のトップに、この認識はないように思います。
「言うこと聞かなければクビ」の前提や、うまくいかない時の責任はすべて発信側にあるという前提も語られず、形だけの米国式マネジメントの仕方が、あたかも是として日本企業に浸透しているのです。
仕事を失う恐怖を伴った執行力もなく、責任の所在もあいまいな状態のまま、結果として指示や数値責任の「丸投げ」が多くの企業で常態化していきました。
そのために、多くの日本企業では「面従腹背」という、良くも悪くも無難にやり過ごすための知恵がさらに広まったとも言えるでしょう。