エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬「アデュカヌマブ」が米国で承認された。快挙である一方、業績に影響する薬価については心配を抱える。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
エーザイの内藤晴夫CEO(最高経営責任者)は、毎年春の定例会見で配布する資料の表紙に干支を描き、メッセージを添えるのが恒例となっている。今年の表紙は、丑の絵に「動ぜず前へ進む」と添えられていた。
その精神がついに結実した。
エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー型認知症(AD)治療薬「アデュカヌマブ」が7日、米FDA(食品医薬品局)で承認されたのである。翌8日はエーザイ株に買いが殺到し、取引が成立しないというお祭り騒ぎになった。
エーザイは世界初のアルツハイマー型認知症治療薬として「アリセプト」をすでに販売している。当時としてはもちろん画期的であったが、これは一時的に進行を遅らせるにすぎなかった。
アデュカヌマブはアリセプト以来、約25年ぶりに承認された。ADの初期段階(軽度認知障害、軽度認知症)で投与を始め、長期的に進行を抑制するコンセプト。根本的な原因に作用する世界初の薬となる。
元々はバイオジェンがベンチャー企業から導入して開発を進めていたが、エーザイと提携したことで、2017年から共同開発に切り替わっていた。
19年3月には臨床試験の中間解析で効果が認められず、いったん開発中止を表明した。が、開発中止を表明するまでの残りのデータも含めて再解析したところ、有効性が確認されたとして、再び開発のレールに戻ってきた。
承認申請後も紆余曲折があった。FDAの諮問委員会が20年11月、試験結果に否定的な見解を表明したのだ。当初21年3月を予定していたFDAの審査完了目標日は3カ月延期され、文字通り難航した。
それでも「延期ということは、FDAは承認に前向きなのだろう」と業界アナリストからはポジティブな見立てがなされていた。結果はその通りとなった。
内藤CEOは「AD治療の歴史に新たな一ページを開くことができた」とのコメントを出した。
承認されたことは快挙だ。ただし、業績へのインパクトを握る薬価については心配を抱える。
これまで、「世界でピーク時の売上高は1兆円に及ぶのではないか」(別の業界アナリスト)とも予想されてきた。
だが米国での議論を見るに、この1剤でそこまで期待することには慎重な見方がくすぶる。