戦略とは、取捨選択である

日置 先にご指摘のあった課題に戻りますが、戦略の立案には当然経験が必要で、加えて座学も必要ですね。MBAは1つの手段でしょうが。

松田 マイケル・ポーターは「日本企業には戦略がない」と言いましたが、けっして戦略立案できないわけではない。戦略がなくても成長できる時代にメインバンクを中核に据えたガバナンスが効いていたがゆえに、やる必要がなかったのです。

 銀行融資が担保重視に陥っていくと、将来戦略への関心はより薄れます。すると企業は、事業計画より銀行受けのよい決算書類に磨きをかける。「いまどうするか」を考えれば何とかなるので、わが社の未来、10年後の「メシの種」を真剣に考える機会がなかったわけです。

日置 戦略をつくる以前に、戦略そのものに対する認識がなったのですね。

松田 戦略は、取捨選択です。複数のオプションを準備して、検討を重ねて、1つを選んだら、他は捨てなければなりません。それができないから、あれもこれもと盛りだくさんになってしまう。家電製品がいい例です。ユーザー視点と言って充実したスペックを自慢していますが、それは取捨選択をしない「楽な道」を選んだ結果です。言うなれば、オペレーショナルな意思決定ですね。こういう意思決定をしてきた方がトップマネジメントになっても意思決定はできません。

 加えて言えば、企業組織の上層部は、「リスクはないのか」とか、「そのシナリオは正しいのか」と言いますが、リスクのない確実な意思決定などありません。間違えたなら、気付いた時点で柔軟に対応すればいいのです。これは、先ほど申し上げた執行役員の悩みに直結しています。そういうメンタリティで数十年過ごしてきたことが問題なのであって、それを変えなければならない。

 幸いにして、そういう「病巣」がわかってきているので、戦略策定の勉強と、意思決定のオプション準備と、リスクを取る胆力が備われば、あとは行動あるのみです。

日置 松田先生がおっしゃると、できそうな気がします(笑)。でも、勉強から始めないと、という状況です。

松田  「戦略はセンスだ」と言いたいところですが、私は勉強はしましょうと申し上げておきます。並行して「場数を踏んでください」と。意思決定の覚悟ができるまでは、経験を高速回転させるしかない。その先に、リーダーとしての責任、リスクをどう取るかの解が見えてきます。

日置 昨今では、スタートアップやソーシャルセクターを中心に、胆力を持って意思決定し、結果を出す若者が出てきています。そういうグッドプラクティスが出てくると、大企業の変革への波及効果も期待できそうです。とはいえ、まだまだ少数なので、産業界全体を変えるには時間がかかるでしょうが。

松田 意欲的な若者はスタートアップや海外で挑戦しています。そういう人たちには、戦略論が得意で貪欲に学んでいるという共通点が見出せます。じつは学生も、二極化しています(笑)。