東芝車谷暢昭氏(左)の社長退任を受けて、会長から社長に戻った綱川智氏。経営人材の枯渇が東芝の課題だ。Photo:Bloomberg/gettyimages 

東芝が、経済産業省と一体になって株主総会における株主の議決権行使に圧力を掛けていた疑いがあることが、外部弁護士の調査で明らかになった。株主への圧力に関わったり、その状況を放置したりした役員の続投に黄色信号が灯った。東芝の“人材欠乏症”がさらに悪化しそうだ。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

車谷氏は陣頭指揮を否定も
調査者は「信用できない」を連発

 東芝と日本政府から圧力を掛けられた張本人であるアクティビスト(物言う株主)がえりすぐった弁護士による調査だけに、その追及は容赦なく、調査報告書のインパクトは極めて大きかった。

 問題の舞台は、2020年に開催された東芝の定時株主総会。シンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントをはじめとしたアクティビストが圧力を受けたというものだ。

 東芝の議決権の15%程度を保有する筆頭株主だったエフィッシモが、同ファンドから東芝に取締役を送り込む株主提案を行ったが、同年7月の定時株主総会で否決されていた。

 エフィッシモは、その株主総会の運営が適正だったかどうかを第三者が調査するよう求める「別の株主提案」を行い、今年3月の臨時株主総会で可決承認を勝ち取った(経営陣は同株主提案に反対していた)。

 そうした経緯があって実現したのが、今回の外部弁護士による調査だった。

 報告書には、東芝幹部が当時の車谷暢昭社長ら経営陣を続投させるために、経済産業省幹部と綿密に連携しながら、アクティビストに圧力を掛けた経緯の詳細が書かれている。

 経産省は所管する改正外国為替及び外国貿易法(外為法)による外国人株主への規制をちらつかせながら、エフィッシモに株主提案を撤回させようとしたり、役員選任議案に対して議決権を行使しないよう誘導したりしていた。

 報告書の記述は生々しい。例えば、車谷氏について、こんな事実が明らかにされている。

 社長続投が危ぶまれた車谷氏は、エフィッシモが東芝に送り込もうとした取締役候補者について「2人を自主的に下ろさなくてはいけません。竹内弁護士の泣き所を調べてください。花王(出身)の方も」と携帯電話のショートメールで人事・総務部の担当者に調査を指示していた。

 また報告書では、車谷氏のみならず、東芝の現役役員によるこの問題の関与についても記されている。

 6月11日には東芝の社外取締役のジェリー・ブラック氏ら4人が、会社側が6月25日の株主総会に諮る取締役候補者案について、「全員は支持しない」と異議を唱える声明を出した。そのため、複数の役員の続投に“待った”がかかる公算が大きくなっている。