東芝は、何としても避けたかった投資ファンドへの身売りを回避できたようだ。東芝身売り騒動の端緒となった英ファンドが買収の検討を中断したためだ。しかし、今回の騒動で株価がつり上がったことで、事業再編を求める株主の要求は高まっている。東芝の難局は続きそうだ。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
英CVC買収提案“撤回”で加速する
車谷派「粛清」と次期社長レース
東芝は車谷暢昭社長の電撃辞任で、社内に激震が走っている。東芝で始まる「車谷派の粛清」と、「次期社長候補の人材難」の実態に迫った。
「上場維持が東芝にとって一番いい。(ファンドによる東芝買収や非公開化は)これで当面なしだ」。英CVCキャピタル・パートナーズが東芝買収の検討を中断した4月19日、東芝幹部は安堵した表情で語った。
CVCによる東芝買収提案は、2兆円規模の買収資金を調達するめどさえ付かない「絵に描いた餅」に終わった。そもそも金融機関に融資を相談する段階にすら至らず、ついぞ買収スキームが具体化することはなかったのだ。
当初よりCVC提案は、「生煮えの内容で検討に値しない」と東芝から不評を買っていた。
投資ファンド単体で2兆円規模の買収資金を確保するのは不可能で、具体的な提案を行うには他のファンドや金融機関、事業会社などが買収に参加する必要がある。だが、CVCとのタッグに名乗りを上げる企業は皆無だった。
それもそのはず、CVC提案は、東芝社内調査で幹部社員から不信任を突き付けられ窮地に陥った車谷暢昭社長(当時)が、経営トップに居座る保身のために、水面下で関わっていると疑われていた。提案に「マネジメントの維持」という文言が含まれていたことや、車谷氏の前職がCVC日本法人会長だったことも臆測を呼んだ。
信頼が揺らいだCVC提案にとどめを刺したのが14日、東芝の取締役会が車谷社長を事実上、解任したことだ。上場維持を重視する東芝の意向が明確になり、ここで潮目が変わった。東芝のように安全保障に関わる企業への敵対的買収はリスクが高いことはファンドにも金融機関にも周知の事実だったからだ。
東芝のメインバンクである三井住友銀行の幹部は「身売りが東芝や日本にとって本当にいいことかどうかの検討が必要だ。(資金を提供する)銀行のレピュテーション(リスク)にもなるし、政府のスタンスも関係する」と東芝買収資金の融資に慎重な姿勢を示した。
メガバンク幹部が示唆する通り、政府与党も東芝の身売りに消極的な姿勢を強めていった。甘利明元経済再生担当相ら自民党幹部が外資による東芝買収に懸念の声を上げたし、経済産業省は車谷氏の保身の疑いが強いCVC提案を「筋悪」と見て距離を取っていた。
米ファンド、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)なども東芝買収を模索したが、資金調達までこぎ着けるのは難しそうだ。