成長するための「燃費」を上げるコツを研修で教えていく
永田 大学では人材育成に関しての研究が多くなされていますが、なかでも特に経験学習理論*1 に注目されたそうですね。それは、なぜですか?
*1 経験学習理論は、組織行動学者のデイビット・コルブによって提唱された。仕事のさまざまな経験から学びを得ることを「経験学習」と呼び、現場での体験が個人の成長に繋がるとしている。
亀山 わたしは当社に加わる前、三井物産で採用と研修に4年ほど携わっていました。その仕事を通じてさまざまな人を見てきましたが、「優秀」と言われる人の多くは、放っておいても、特別な研修に参加しなくても、どんどん成長していきます。彼ら彼女らがなぜ成長していくのかというと、仕事上の経験を通して自分自身を鍛えているからです。自ら創意工夫し、失敗経験から学習するうちに失敗しなくなって、成功経験から学習して成功確率を高めていく――そうした成長を目の当たりにしてきたので、人材開発を主業とする当社では、「仕事を通じて自ら成長していく人」を育てる仕事をすべきだ、と思ったのです。
永田 仕事を通して成長するメカニズムが経験学習理論のなかにある、ということですか?
亀山 そうです。私たちは、新たな知識・スキルを習得してもらうための研修も多々提供しています。もちろんそれも重要ですが、仕事上の経験を通して成長するメカニズムを教え強化することができれば、誰もが仕事を通じて成長するための“燃費”を上げられますよね。そのメカニズム、つまり経験学習理論こそ、私たちが専門家として深めるべき知見であり、研修企画で活用するべきサイエンスのど真ん中だと思ったのです。
永田 経験学習こそがビジネスパーソンの成長に欠かせないものである、と…
亀山 はい。ビジネスパーソンが何を糧にして成長するのかというと、7割は仕事、2割は上司や同僚からのアドバイス、1割は研修や読書などの学習活動だと言われています。労働時間が仮に年間約2000時間だとすると、そのなかで、研修に参加している時間はせいぜい3日間くらいでしょうか。つまり、約20時間です。労働時間のたった1%で、仕事をしている時間の方が圧倒的に長いわけです。「仕事で経験したことを振り返って、そこから学びを抽出し、次の経験に生かす」という経験学習サイクル*2 を回しながら、雪だるま式に成長していくのが、社会人である「大人の成長」です。その経験から学ぶ“燃費”を1%でも2%でも上げられれば、労働時間という母数が大きい分、学びの量も大きくなります。だから、“燃費”を上げるコツを研修で教えていきます。「一人ひとりの現場での成長に経験学習というテコを効かせていく」というイメージですね。
*2 経験学習サイクルは、「具体的経験→内省的観察→抽象的概念化→能動的実験」で、経験学習理論を生んだデイビット・コルブが提示し、経験学習のメカニズムとして広く知られている。