「ここの森から生み出される売り上げは
年間80万円にしかならない」

 そうですね。農業や漁業は食に関係する産業なので、人の関心は高いですよね。日常の導線で目にする機会もありますし、良いものをつくっていればメディアなどでも取り上げられます。でも、林業というのは山や森という、普段、人目につかないところで行われています。一般の人はあまり木に触れる機会もありません。そうなると、自分たちで発信していく必要があります。

「これまで捨てられてきた部分を、工夫してその個性を引き立てる形で活用したい」(青木氏) Photo by H.K.「これまで捨てられてきた部分を、工夫してその個性を引き立てる形で活用したい」(青木氏) Photo by H.K.

 林業は高齢化しているため、なかなか高齢のかたたちがそれをやるのは難しい。でも私たちは、創業したばかりでまだまだ未熟ですが、情報発信をしていくことはできます。先ほどお伝えした企業理念の中に「山のいまを伝え」というフレーズがあるのはそのためです。

「美しい森林を育み、活かし、届けます。」というフレーズもありますが、いざ届けられる段階になっても、私たちが知られている存在になっていないと、受け取ってもらうことができません。そのため、創業当初から情報発信をして、自信のある木やプロダクトができた時に、「いよいよ東京チェンソーズがものを出したぞ」と言ってもらえるように、情報発信には力を入れています。

――「モノ」だけでなく「人」が伝わってくるWebサイトだと感じました。これを見て新しい人が入ってくれば、さらにおもしろい組織になりそうです。

 はい。ただ「こういうことをしている」というのを伝えるだけではなく、そのことが正しいことかどうかを判断してもらうための何かしらの基準が必要と考え、森林が適切に管理されているかどうかを示す国際的な森林認証の「FSC(Forest Stewardship Council)認証」を取得しています。

 森林の管理者向けの「FM(Forest Management)認証」と、木の加工や流通者向けの「CoC(Chain of Custody)認証」という2つの厳しい基準をクリアした製品のみに「FSCマーク」をつけることができるのですが、両方を自社で取得しているのは、東京では私たちのみです。

「FM認証」では、特にサスティナブルな森林経営というものを重要視されているのですが、私たちが管理している25ヘクタールの森林にそれをあてはめると、山から切り出していい木は、年間、80立方メートル分の木のみなんです。

 今、1立法メートルがだいたい1万円ぐらいで取引されているので、ここの森から生み出される売り上げは、市場へ持っていっても年間80万円しかなりません。この「80立方メートル分の木」からどれだけ売り上げを伸ばすことができるのか、それが我々の会社の最重要課題となっています。

――こうした認証を持っている商品を扱うか否かは、取り扱う企業にとっての社会的価値にも関係する時代になりました。 同時に、ESG(Environment,Social,Governance)投資など、投資家や金融機関の投資判断にもつながります。

 また、FSCの10の原則は、SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)にも直結してきますので、企業だけでなく、消費者の関心もさらに高まっていくはずです。

 先ほど、課題は2つあり、ひとつは補助金の問題を挙げられていましたが、もうひとつの課題は何でしょうか?