地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、ベストセラーとなった『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏。また、日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」に参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。今、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだ。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)
「地理を学ぶ」メリットとは?
──宮路さんはどんなところから情報収集をして、どんなふうに仮設や物語を組み立てているんでしょうか?
宮路秀作(以下、宮路):それは本当によく聞かれるんですよ。「どんな本を読んでいるんですか?」とか、「どんなふうに勉強しているんですか?」とか。
ただ、私自身は「勉強している」という感覚はないんです。見るものすべてが勉強材料になるといいましょうか。
例えば、渋谷を歩いていても、ここに谷があって、ここが丘だから、雨が降ったら水はこんなふうに流れていくだろうな、と思ったりします。スエズ運河で座礁事故が起こったと知れば、同じようなことがマラッカ海峡で起こることだってあるんじゃないかと考えてみたり。日常で見聞きするすべてが勉強材料であり、四六時中、いろんな仮設を立て、物語を考えています。
もちろん、それらの仮設や物語を確認するために、いろいろな情報に当たります。そのときには二次情報ではなく、原典に当たるように心がけてはいますね。
──なるほど。具体的には?
宮路:海外のサイトを確認することは多いですね。CNN、BBC、ウォールストリート・ジャーナルあたりですかね。
シンガポール新聞もよく読みます。シンガポール新聞は東南アジアの情勢がよくわかっておもしろいですよ。
──シンガポール新聞って初めて聞きました!
宮路:実は今年2月、2020年9月にインドで成立した「農産物流通促進法」などの3つの法律に反対するデモが発生しました。
これまでのインドでは、地域ごとに公に設けられた市場があり、農家はここでの農作物の販売が義務づけられていましたが、「農産物流通促進法」によって自由販売が可能となりました。
このデモがパンジャブ州を中心に発生したデモでした。背景知識がなければ、「インドでデモ? ふぅ~ん」で終わると思いますが、私は「パンジャブ州でデモ!?」となりました。
──パンジャブ州はどんなところなんですか?
宮路:パンジャブ州はヒンドゥー教徒の多いインドにおいて、シク教徒がすごく多い州なんです。そして、インドの米不足を解消し、世界最大の米輸出国に導いた「緑の革命」にいち早く成功した州でもあるのです。
イギリス植民地時代に灌漑用水路の建設が進められたこと、インド独立後に農村電化が進められたこと、米と小麦の二毛作が確立したことなどを背景に、パンジャブ州は米と小麦の収穫量が多く、インド食糧公社が買い入れた米のおよそ20%、小麦のおよそ33%がパンジャブ州産だったほどです。
──農業の盛んな州なんですね。
宮路:はい。そこで、「ピーン!」ときました。