スエズ運河がもっと早くできていれば、アパルトヘイトはなかった!?

地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、ベストセラーとなった『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏。また、日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」に参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。今、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだ。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)

もしスエズ運河が
ずっと使えなくなったら?

──今年の3月、「スエズ運河で事故が起き、通れなくなった」というニュースが大きな話題となりました。もし、スエズ運河がそのまま使えなくなったとしたら、どんなことが起きるでしょうか?

宮路秀作(以下、宮路):もしそうなったら、アジアからヨーロッパへ向かう船はアフリカ大陸の南を回るしかなくなります。まず、南アフリカに寄港する船が増えますよね。

 そうなると、南アフリカでは寄港する船から手数料を取るなど新しいビジネスが生まれる可能性があります。また、あのあたりの海域を通る船が増えれば、海賊が横行することも十分に考えられます。

 他にもアフリカ西側にある国のなかでガーナ、ナイジェリア、コートジボワールあたりに寄港する船が増えるかもしれませんね。

──なるほど! 停泊地が必要になりますよね。

宮路:世界の物流が劇的に変わります。すると当然、「倉庫がどこにできるのか?」「インフラをどうやって整備するのか?」という話になり、港の風景やその国の事業にもさまざまな影響を及ぼすでしょうね。

──1つのトピックから地理的視点を持ちつつ想像したり、仮設を立てるのはとてもおもしろいですね。

宮路:本当にそうですよね。私は、地理を学ぶことは「ものの見方を増やすこと」だと思っています。さまざまなニュースを地理的視点で紐解いていくと、また違った世界が見えてくる面白さがありますね。

 実際、スエズ運河がない時代は、アフリカをぐるっと回らなければならなかったので、その寄港地として、イギリスはガーナやナイジェリアを植民地にしました。