現在、何らかの苦しみや悩みを抱えている方であっても、この4つに焦点をあて自分なりに考えることで、前を向いて生きていくヒントが生まれるとも思っています。

 ただ、日々、こうしたことに向き合っていられればよいかもしれませんが、忙しい日々の中でそれはなかなか難しいものです。

 そこで、自分にとって何が幸せなのかを考える上でのヒントをご紹介します。

胃がんで死の床について
司法書士が見つけた幸せ

 ある司法書士の患者さんを看取ったときのことです。

 この患者さんは64歳のときに胃がんが見つかり、仕事をやめて治療に専念したのですが、徐々に薬が効かなくなり、主治医の先生から「これ以上の治療は難しい」と告げられたのを機に、ホスピス病棟に入院されました。

 最初のころ、その患者さんはよく「残された時間は限られているし、生きていても意味がない」とおっしゃっていたのですが、スタッフが丁寧に話を聴くうちに、少しずつ気持ちが変化していったのでしょう。

「今から思うと、本当に良い家族に恵まれました」「病気になって初めて人の弱さを知り、人の優しさがわかるようになりました」と口にされるようになりました。

 そして、苦しみを通して知った、家族の大切さ、人の優しさを文章に書き残し、若い人に伝えたいと考えるようになったのです。

「私が死んだあとでも、この人生で学んだ大切なことを、若い人たちに伝えることができる。こんなに嬉しいことはありません」

 と、その患者さんは目を輝かせていました。

 ほかにも、この世を去った後の世界に思いをはせていた方は、たくさんいらっしゃいます。

「生きている間は仕事が忙しく、なかなか一緒にいられなかったけれど、死んだら、常に近くで、幼い子どもたちの成長を見守ります」と言うお父さんもいれば、自分の人生を振り返り、「自分たちが造った橋が、これからも多くの人の役に立つと思うと、とても幸せな気持ちになります」と語ってくれた橋梁(きょうりょう)メーカーの社員の方もいらっしゃいました。

 このように、死という究極の苦しみでさえ、人から、未来を夢見る自由を完全に奪うことはできません。

 今、元気に生きていられるなら、なおさらです。

 未来に思いをはせることは、人に与えられた素晴らしい能力であり、自由であり、権利であり、生きる支えになります。

 たとえ年齢を重ねていても、若いころに比べて体の自由がきかなくなっていても、みなさんにやりたいことや実現させたいことがあるなら、ぜひその気持ちを大事にしていただきたい、未来に思いをはせることをあきらめないでいただきたい、と私は思っています。