免責特権を失ったトランプ氏の
大統領選出馬はイバラの道

 そこで気になるのが2024年の大統領選である。

 6月5日、ノースカロライナ州の共和党大会で演説したトランプ前大統領はバイデン政権の移民・外交・経済政策を批判し、「私たちの国が、目の前で破壊されている」と述べ、「2024年を非常に楽しみにしている」と出馬への意欲を見せた。

 トランプ氏は「2020年の選挙は盗まれた(大規模な不正があった)」と虚偽の主張を繰り返し、自分を批判する共和党議員を激しく攻撃することで党内の強い影響力を維持している。

 それは世論調査にも表れており、5月後半、CBSニュースが行った調査では、共和党員の66%が「トランプ氏に忠実であることが重要だ」と述べ、またロイターとイプソスの共同調査では、「トランプ氏は2024年に立候補すべきではない」と考えている共和党員はわずか28%にすぎないことがわかった。

 トランプ氏は2020年11月の選挙結果を覆そうとして起こした60件以上の訴訟で敗訴し、自分の部下だったウィリアム・バー司法長官(当時)も「大規模な不正を裏づける証拠は発見できなかった」と述べた。そしてこの選挙で共和党は下院と上院の支配権も失った。

 にもかかわらず、トランプ氏がなぜ党内で強い影響力を持ち続けているのか不思議でならないが、問題は同氏が有罪となった場合、2024年の大統領選はどうなるかである。

 法律の専門家によれば、たとえトランプ氏が起訴されて有罪となり、収監されたとしても、「大統領選への立候補を禁止する法律上、憲法上の規定はない」ので、それは可能だという。実際、1992年の大統領選では、リンドン・ラルーシェ氏が第三政党の候補者として連邦刑務所の独房から立候補した(落選したが)。

 しかし、法的に可能だとしても、実際にトランプ氏が有罪となり、収監された場合、共和党の候補指名を勝ち取るのはかなり難しくなることが予想される。また、新しい政党を立ち上げて第三政党から立候補したとしても、当選に十分な票を獲得するのは難しいだろう。

 それともう一つ重要な点は、一般市民に戻ったトランプ氏は「大統領の免責特権」を使うことはできないということだ。大統領だった時はそれを最大限に利用して、脱税や性的暴行疑惑、司法妨害などさまざまな法的トラブルを切り抜けてきたが、もはやそれはできない。

「トランプ劇場」の第二幕は、トランプ氏にとって「イバラの道」になりそうな予感がする。

(ジャーナリスト 矢部 武)