大陪審では一般市民から選ばれた陪審員が検察によって集められた証拠書類を審査し、召喚された証人の証言を聞いた上でトランプ氏の起訴に関する決定を下す。もし起訴されて有罪となれば、収監される可能性がある。つまり、合衆国大統領を務めた人物が刑務所に送られるかもしれないということだ。

 本稿では捜査の行方を探りながら、トランプ氏ははたして刑務所に入るのか、それとも2024年の大統領選に出馬してホワイトハウスに戻ることができるのか、新たに始まった「トランプ劇場」の第二幕を追ってみたい。

二重帳簿による虚偽申告で
脱税、金融詐欺の疑い

 2021年2月22日、連邦最高裁はトランプ前大統領に対し、納税記録や財務記録をニューヨーク州のマンハッタン地検に提出するように命令した。ところが、トランプ氏は長い間、「大統領の免責特権」を掲げて、これらの記録の開示を拒否し続けてきた。

 しかし、同地検のサイラス・バンス検事長がトランプ氏に対して開示を求める訴訟を起こし、最高裁まで争った結果、その主張が認められたのである。

 バンス氏はジミー・カーター政権で国務長官を務めた同名の父を持つ民主党の主流派で、ニューヨークで大規模な不動産投資・開発事業を展開しながら、数々の法的トラブルを起こしてきたトランプ氏の捜査に強い執念を燃やしているように思える。

 法律の専門家によれば、マンハッタン地検が入手した財務記録のなかには、トランプ氏とトランプ・オーガニゼーションの幹部が納税額を少なくしたり、銀行融資や保険取引を有利にするために資産価値の虚偽申告を行ったことを示す証拠書類や、それに関連する会計事務所や保険ブローカー、銀行とのやりとり(交信記録)などが含まれている可能性があるという。

 かつて10年以上にわたってトランプ氏の個人弁護士を務め、「裏の仕事」を一手に引き受けて「フィクサー」と呼ばれたマイケル・コーエン氏は、政治ニュースサイト「インサイダー」にこう語っている。

「トランプ・オーガニゼーションは二重帳簿を作っていました。一つは銀行から有利な融資を受けるために資産価値を膨らませた“バラ色の財務状況”を示したもの。もう一つは税金を全く、またはほとんど払わずに済むようにするために多額の債務と低い資産価値を示したものです」(2021年5月26日)