相関関係を見る

 まずは、相関関係があるかを確認することが第一歩です。

 相関関係とは、一方が増えればもう一方も増えるといったような関係です。たとえば、人による差はありますが、語学の勉強時間と語学の読み書きの能力はある程度相関します。「勉強時間が多ければ読み書きの能力が上がる」というのは常識的に考えても納得性は高いでしょう。相関関係が実際に示されたうえで、直感的に皆が「まあそうだな」「蓋然性が高いよね」と考える結論は妥当性が高いことが多いので、一つの武器になります

「ある場合とない場合で差が出る」というのも、因果関係の一種です。もしAという場所にいるとくしゃみが出るのに、Bという場所ではくしゃみが出ないのであれば、くしゃみの原因はAの場所固有に存在する何かにある可能性が高いでしょう。オフィスの内装の化合物や、そこだけにある観葉植物などがその候補になるわけです。もし実験できるなら、心当たりのあるものを移動してみてくしゃみが出るかを確認すると、原因が明確になってきます。

 なお、ある結果は必ずしも1つの原因だけに起因するものではありません。たとえば、あるビジネスパーソンの給与のレベルは、本人のビジネス能力だけで決まるのではなく、業界の給与レベル、努力の程度、結果へのこだわり、上司や同僚の出来などにも影響を受けます。そうした原因の候補をいくつか洗い出し、何が結果に効いてきそうかを考え、可能であれば実験や観察で裏付けることが有効です。

疑似相関に注意

 相関関係は因果関係の必要条件ではありますが、十分条件ではありません。つまり、一見相関関係があるようでも、それが本当に原因と結果の関係になっているかは分からないということです。

 有名な例は、「ピアノを習った子は学校の成績もいい」というものです。確かに、ピアノで指を使うことが脳に好刺激を与えるという向きもあります。その要素は否定できませんが、一方で、「そもそもピアノを習っている子の家庭は裕福なことが多い。裕福な家庭は教育にもお金をかける傾向があるから成績も良くなる」という疑似相関の可能性もあります。あるいは、そもそも我慢強い子や規律がしっかりしている子が、ピアノの練習にも適しているし、それが勉強にも生きる、という見方もあります。もしこれらが正しいのだとしたら、無理に子どもにピアノを習わせても、必ずしも学業は伸びないでしょう。

 別の例では、2020年に新型コロナウイルスの重症化の防止にBCG接種が効いているのではないかという話が持ち上がりました。確かに国ごとの比較を見ると、BCG接種(特に日本株やソ連株)をした国がそうでない国に比べて新型コロナによる重症化が少ないように見えます。特によく指摘されたのが、旧東ドイツと西ドイツの差、そしてイランとイラクの差、ポルトガルとスペインの差といった隣接地域における差でした。

 一方では懐疑派の人からは、そもそも結核(菌によって起こります)のワクチンがなぜ物質的にはるかに小さく作用機序も異なる新型コロナに効くのかという当然の疑問も出ました。上記の国ごとの差異も、人口密度や生活様式の疑似相関ではないかという疑念が出されました。ちなみに筆者も懐疑派です。もしBCGの接種が効くのであれば、日本でもそれが義務化された年の前後で断続的な(非連続的な)重症化率の差異が出るはずですが、実際にはそうなっていません。

 あるいは、沖縄県についていえば、返還以前生まれのBCG非接種世代(2021年現在、おおむね50歳以上です)の重症化率が他の都道府県に比べて高くなりそうなものですが、こうした事実も観察されていないようです。このようにもしこれが原因なら、ここに差異が生じるはずだ」という、「比較可能な」ポイントを見つけて検証することが非常に大切です。

好循環を探せ

 先述したように、ビジネスの世界は単純な因果関係で説明できるケースはむしろ少なく、さまざまな因果関係が組み合わさったりしています。その中でビジネスの成功に重要な役割を果たすのが好循環です。

 たとえば、ネットビジネスの基本ともいえるネットワークの経済性も好循環の一種です。一例としてiPhoneは、「ユーザー数が増える→アプリ提供者が増える→(便利になったことで)ますますユーザーが増える→(顧客が増えたことで)ますますアプリ提供者が増える……」という好循環をいち早く構築しました。SNSなどで一気にユーザーが増えるのも、便利さ(多くの人とつながれる、情報を得やすくなるなど)がますます多くのユーザーを引き付けるからです。

 こうした好循環はいったん回り始めると自走しだしますから、いかに早くそこに達するかの勝負になります。そうした好循環構造を見出し、作り上げることが勝負のカギを握るのです。

 一方で、その逆の悪循環もしばしば生じます。たとえば、スポーツビジネスで「チームが弱い→ファンが減って収入が減る→サラリーを出せないので、選手が離れる→ますます弱くなる……」というケースです。これもいったん回り始めると止めるのは容易ではありません。このケースでは、悪循環の芽を見つけたら、早期につぶすことがカギになります。非常に複雑な因果構造の中には、高い確率でこうした好循環や悪循環が入り交じっているものです。

 ビジネスパーソンは学者ではないので、正確な因果関係図を描くことが期待されているわけではありません。むしろ、その中にこうした循環構造がないかと仮説を立て、それを簡単でもいいので検証していくことで、大きなリターンを得られることが多いのです。

★効果的なシーン

問題解決を効率的に行ったり、施策の有効性を検討する

★一目置かれるためのポイント
①相関を見極める
②疑似相関を見極める
③循環構造を活用する

(本記事は『グロービス流「あの人、頭がいい!」と思われる「考え方」のコツ33』〔グロービス著、嶋田毅 執筆〕の抜粋です)