だれだって、「頭の回転を速くしたい」と思ったことがあるだろう。
効率よく仕事を進めたい、アイデアがパッとひらめくようになりたい、うまい受け答えができるようになりたい…。身近にある「こうなりたい」の近道は、ずばり「考え方のコツ」を手に入れることだ。
それらは、“~シンキング”といった思考法ほど、きれいに構造化されたものではない。でも、ちょっとしたコツをつかめば、だれでも使えて、しかも使うほど生産性が上がるものばかりだ。
『グロービス流「あの人、頭がいい!」と思われる「考え方」のコツ33』では、MBAのクラス、学者、コンサルタントなど、「考えることにこだわっている」人たちが日常で使っている、確実に生産性が上がる考え方のコツだけを紹介している。ぜひ、あなたも“本当に役に立つ”考える力を身につけてほしい。(イラスト:fancomi)
相手の視点に立って物事を見てみよう
人間は往々にして自分本位でものを考えてしまうものですがそれは得策ではありません。人間は社会的な動物であり、誰だって自分一人で生きていくことはできません。ビジネスも同様です。相手の視点に立って、自分だけではなく相手にとってもメリットがあるようにすることは、今やビジネスの基本ともいえるでしょう。
相手の視点に立つことを比較的当たり前に行えるのは、マーケティングの施策を考えるときでしょう。自分たちがどれだけ思いを込めて開発した製品・サービスであっても、顧客のニーズに応えられないものはあまり売れることはありません。
それは経験的にも分かっているので、比較的顧客視点に立ちやすいのです。ただし、このケースでさえ、企業側が独善的な製品開発や売り方をすることは少なくありません。顧客以外の相手ではなおさらです。ここでは顧客以外のステークホルダーを意識しながら、相手の視点に立つコツを考えてみましょう。
「チャネル」の視点に立つ
チャネルもある意味で顧客といえますが、通常は個人ではなく企業ですし、取り分をめぐって争う相手という側面も大きくなるため、意外に相手の立場に立つことを忘れてしまいます。特にビジネス経験の少ない若手はこの罠に陥りがちです。一方で、企業であるがゆえに考えやすいという側面もあります。通常、企業は売上げや利益の最大化を目指しますから、その基本を忘れなければいいのです。
ではどうすれば彼らの売上げや利益が上がるかといえば、①マージンを高くする、②よく売れる商品を提供する、③手離れを良くしてあげるといったことが典型的です。特に気にするのは②でしょう。よく売れる商品にはいくつかのケースがありますが、通常は定番商品か、広告をガンガン流している新商品です。①②③について何を重視するかは相手によって異なりますが、この基本に立てば、それほど大外しはしないのです。
チャネル戦略で市場地位を上げた有名な例は、昔のペプシコーラです。アメリカでもコカ・コーラにはるかに遅れた2番手企業だった頃、ペプシは次のような決断をし、チャネルに宣言しました。
「納入価格を上げさせてください。その代わり、そこで得た原資を広告などに投下してブランドイメージを高め、売れるような状態を作ります」
そして実際にペプシはそれを実行し、コカ・コーラに並ぶような市場地位を構築していったのです。すべてをチャネルにいわれるままにするのではなく、最終的に彼らにも自社にも好ましいWin-Winの視点を持てたことが大きな成功要因でした。
「交渉相手」の立場に立つ
交渉も、相手の視点に立つ必要性の高い場面です。特に相手が企業を代表している場合、自分にとっての交渉相手という側面もさることながら、相手にも組織内の立場があるという理解が必要です。
「今回の交渉で失敗したら左遷の可能性がある」というシーンと、「いくつかある交渉の中の一つ」では、相手の真剣度合いも変わってくるでしょう。あるいは長い継続的な関係がある場合は、「今回は自分に花を持たせてよ。次はあなたの方にいいようにするから」といったやり取りも可能になるかもしれません。慣れ合いはもちろん良いことではないですが、「交渉相手も組織人」ということを理解しておくと、通常は見えてこない落としどころも生まれる可能性があるのです。
たとえば、「タフな交渉相手に対して最後まで粘った」という事実さえ示せれば、相手の組織の中での評価は落ちない可能性があったとします。であれば、そこさえ意識しておけば、最終的に相手に花を持たせつつ、こちらの要望を通すことも可能になるかもしれないのです。政党の国会対策委員などはよくこの手を使い、妥協点に落とし込んでいきます。相手の野心などに訴えかけることもあります。
「〇〇さんは同期の△△さんと課長の椅子を争っているんですよね。我々は〇〇さんにその点でご協力できますよ」という持ち掛け方をすれば、相手は交渉相手という以上に、味方や相談相手として接してくれるかもしれません(やり方次第では不興を招きかねないので注意は必要ですが)。
逆に相手が恐れている点を攻めることもできます。具体的には次のような感じです。
「うちの商品は採用いただけないということですか。でも、それを決めたのは◇◇さん(あなた)ですよね。おいおい、うちの商品の方が良かったことは分かるでしょう。そのとき、◇◇さんは人事考課上マイナスの評価がつくことになりますが、それでよろしいんですよね」
よほど自社製品に自信がなければ使えない手ではありますが、相手の関心事をしっかり理解しておくと、このような交渉ができることもあるのです。