香港Photo:PIXTA

6月24日、香港の「リンゴ日報」が中国共産党により廃刊に追い込まれた。メディアは、時に政治や経済を大きく動かす力がある。本稿では、メディアの歴史を振り返り、今後のメディアのあり方を考えてみたい。(著述家、芸術文化観光専門職大学教授 山中俊之)

リンゴ日報が廃刊
北京政府が焦った社会的影響力

 6月24日をもって香港の「リンゴ日報(蘋果日報)」が廃刊に追い込まれた。「リンゴ日報」は1995年に香港で創刊された広東語の新聞である。創刊したのは、アパレル業界で成功した経営者である黎智英氏。同新聞が創刊された背景には、1989年の天安門事件による北京政府の弾圧があったといわれる。

 広州市出身の黎氏は、幼い頃に父親が香港に亡命、母親が労働改造所に送られたため、地元で知的障害のある姉を1人で育てることを余儀なくされるほど辛酸をなめた。

 その後、香港に渡りアパレル業界で成功。香港有数の経営者になった立志伝中の人物だ。

 しかし、黎氏は2020年に国家安全維持法違反容疑で逮捕され、21年5月に起訴された。香港の英雄の逮捕は、香港社会、そして世界に大きな衝撃を与えた。廃刊後も社説の執筆者が逮捕されるなど、弾圧はとどまるところを知らない。ここまでの弾圧は、リンゴ日報の社会的影響力の大きさと、それに対する北京政府の焦燥がうかがえる。

 メディアは、時に政治や経済を大きく動かす。本稿では、メディアの歴史を振り返り、今後のメディアのあり方を考えてみたい。

 メディアとは、一般に「情報を媒介する手段」と定義される。メディア(media)の語源は、間にあるものを意味する「medium」であるともいわれる。人と人、事象と人の間にあるものがメディアなのだ。その歴史は古代ローマ時代にさかのぼる。