「IFRSの適用によって、今後自主的に上場廃止を目指す企業が増えるのではないか」
中堅企業を中心にコンサルタント業務を手がけるESリサーチの髙桑昌也社長は、このように予測する。
その予測の背景にあるのは、「企業にとって、IFRS(国際会計基準)の適用準備にかかる手間やコストがバカにならない」という現実だ。
前回まで繰り返し説明した通り、2015年または2016年の3月期から強制適用されるIFRSの適用準備には、中小企業だと最低でも1年、大企業だと2年もの時間を要すると言われる。
企業規模にもよるが、会計システムの再構築や専門知識を持つ社員の採用など、社内のインフラ整備にかかるおカネも、数千万円~数億円は見ておく必要がある。確かに、関係者の手間やコストはバカにならないと言えるだろう。
株式市場からの「退場組」も?
IFRSから目を背ける企業たち
しかしだからと言って、IFRSの適用を回避するために企業の自主的な上場廃止が相次ぐことなど、本当にあり得るのだろうか?
実はこの指摘、「予測の域を出ない」とも言い切れないようだ。別のコンサルタントは、「まだ真剣に相談されたことはないものの、コンサル契約を結んでいるクライアント企業から、株式非公開化のメリットを尋ねられることが多くなった」と明かす。
誤解なきように言っておくと、IFRSの適用によって企業が得られるメリットは、決して小さくない。近い将来、日本の会計が国際基準に統一されれば、世界中の投資家が日本企業の業績をより簡単に比較分析できるようになる。そうなれば、企業が国境を越えてより多くの資金を調達できる可能性が、これまでとは比べ物にならないほど広がるはずだ。
だがそれは、「主にグローバル展開をしている大企業に限っての話」とも言える。国内展開しかしていない企業や、大不況で苦境に陥っている中小企業にとって、IFRS適用で生じる負担はやはり重い。彼らが抱える不安の大きさは、大手の比ではないだろう。
株式市場を見れば、証券取引所から「退場」を命じられたり、自主的に市場から「退場」する企業は、ここに来て急増している。大不況の煽りを受け、株価の長期低迷、経営破綻、M&Aによる再編などが本格化しているためだ。たとえば、2009年における東京証券取引所の上場廃止件数は約80社と、2000年以来の高水準となった。