前回、前々回と、国際収支表における「その他投資」や「誤差脱漏」という項目が「円キャリー取引」と解釈できることを述べてきた。少なくとも、その動きと為替レートの動きは、密接に関連している。
ところで、これらの項目の内容はどのようなものなのだろうか。「その他投資」について、日本銀行のサイトでは、つぎのように説明している。
「その他投資には直接投資、証券投資、金融派生商品および外貨準備資産に該当しない全ての資本取引を計上します。貿易信用、貸付・借入、現預金、雑投資を含んでいます。証券貸借取引の対応項目も貸付に計上します。」
円キャリー取引は、日本の銀行から短期の借り入れを行ない、これを外貨に転換して外国で長期の投資を行なうものである。したがって、この項目(貸付・借入)の中に含まれていると考えられる。ただし、それが「その他投資」のうちでどれほどの比重を占めるかは明らかでない。
なお、日本銀行の「国際収支動向」では、年間の「その他投資」の動きについて、つぎのようなコメントをしている。
08年に関しては、「海外インターバンク市場運用資金(「預け金」)の回収」としている。07年に関しては、「海外店への貸付増加等から、資金流出超過幅が拡大した。海外投資家の円資金需要に応じて、現預金や本支店勘定を通じた資金放出が拡大した」としている。
次に「誤差脱漏」だが、これが重要な意味を持つというのはおかしなことではあるが、これは日本の統計だけが不完全なことを意味するのではなく、全世界的な現象である。世界全体の誤差脱漏を合計すると、年率で550億ドル程度の赤字になる(ブレンダン・ブラウン『ドルはどこへ行くのか──国際資本移動のメカニズムと展望』春秋社、2007年)。
そのなかには、密輸や犯罪組織が介在する資金移動もあるが、オフショア金融センターに向かう資本移動も含まれている。円キャリー取引のかなりの部分はオフショア・マーケットを経由して行なわれているので、「誤差脱漏」のなかには円キャリー取引も含まれていると考えられる(ただし、「その他投資」の場合と同様、それがどれほどの比重を占めるかは明らかでない)。
以上のことから、額的に正確に一致はしないかもしれないが、「その他投資」や「誤差脱漏」の動向が「円キャリー取引」の動向を示していると考えることはできるだろう。