がん治療、口の重い医者や病院から情報を引き出すには 金田信一郎(かねだ・しんいちろう)
ジャーナリスト
1967年東京都生まれ。「日経ビジネス」記者・ニューヨーク特派員、日本経済新聞編集委員を経て2019年に独立、会員誌「Voice of Souls」を創刊。著書に『つなぐ時計 吉祥寺に生まれたメーカーKnotの軌跡』(新潮社)、『失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』(日本経済新聞出版)、『テレビはなぜ、つまらなくなったのか』(日経BP)、『真説バブル』(日経BP、共著)がある。

患者を4分類して医者との
コミュニケーションを円滑に

――一方で、お医者さんは偉いのだから、患者は言われた通りにすればいい、と思っている人もいますよね。

金田 多いですよ。医者が言うことが絶対だと思って、「先生に全部お任せします」と頼るほうがラクだし、心地いいと思う人もいます。特に高齢者には、そういう人も少なくない。でも、若い世代には、「自分で判断したいから、もっと情報をほしい」というタイプも増えている。浜松オンコロジーセンターの渡辺亨院長は「医者・患者関係4つのモデル」を整理しています。「お任せタイプ」から「自己選択タイプ」まで、4タイプが並びます。

1)父権型(paternalistic)
患者に価値観があまりなく、謙虚なケース。自主性もなく、従属するタイプだから、医師は自分が信じる最善の治療を実行すればいい。医師は「保護者」の役割となる。

2)解釈型(Interpretive)
患者の価値観は未熟で、自主性は自己学習しながら少し出てくるようなタイプ。この場合、医師は患者が意思決定するのに必要な情報を提供しつつ、最適な治療を提案して実行していく。医師の役割は「カウンセラー」「助言者」となる。

3)審議型(Deliberative)
患者の価値観は柔軟で可変、自主性はそれなりにあるので納得すれば決定できる。医師は、複数の選択肢の中から適切な類型を説明して実行していく。医師の役割は「友人」や「教師」のような存在。

4)情報型(Informative)
患者の価値観が明確で、自主性が高く、選択できるタイプ。この場合、医師は関連する医療情報をすべて提示し、患者の選択した治療を実行していく。医師の役割は「知識・技術提供者」。

――この分類、すごく分かりやすいです! 金田さんはどのタイプですか?

金田 私は多分、「情報型」と「審議型」の中間くらいですね。とにかく自分の価値観がはっきりしているから、自分で選択して判断しないと気が済まない。ただ、がんに関する知識がまだ浅いから、医療関係者の説明や助言もほしい。私みたいに価値観がはっきりしている患者は、医師からできるだけ情報を提供してもらって、自分で決めるようにしないと後悔するでしょうね。

 一方、私が最初に入院した東大病院は、私と反対の「父権型」の患者が多いようでした。だから、患者の意向などを強く意識せず、医者が選んだ最善の治療を実行しているケースが多いように感じました。ただ、東大病院は東大病院で、「父権型」の患者に信頼されているわけですから、それはそれでいいんですよ。

患者は、がん告知のタイミングで
自分がどうしたいか伝える必要がある

――医者に従う「父権型」は別として、自分で選択、判断したいがん患者さんの場合、どのタイミングでその意向を伝えればいいんでしょうか。

金田 がんが疑われて大病院に行くと、1回目の診察の後に検査をして、その結果を聞きに行く2回目がポイントですね。ここでがんを告知されるケースがほとんどです。そのとき、医者はがんの状態と治療法を伝えます。そこでほぼすべてが決まるので、自分はどうしたいのか伝えるべきなのは実は告知のタイミングなんです。

――告知を受けたときに意思表示をしなければ、病院側の用意した標準治療というベルトコンベアに乗ることが決まってしまう、と?

金田 告知を受けて医者から勧められた手術が決まると、私みたいにベルトコンベアに乗ってしまい、途中で降りることは難しくなります。だからこそ、最初の山場は、検査の後の2回目の診察なんです。

 だからこそ、検査を受けて、数日から数週間後にやってくる診察まで、自分のがんの特徴やステージごとの治療法を調べ、頭を整理して、疑問に思ったことや希望を医者に伝える心構えをしないといけないわけです。私が失敗したのは、この告知のタイミングで、医者が治療法の選択肢を示してくれるものだと勝手に思い込んでいたことですね。

――もう一つ気になるのは、医者も人間ですから信頼できる人なのかどうなのか、の見極めかたです。職業柄、人を見る目が鍛えられている金田さんが信頼を寄せる、国立がんセンターの藤田先生のような方ばかりではないと思うので。

金田 藤田先生のコミュニケーション能力はとても高いです。私は30年以上、取材でいろんな人に会い続けてきたので、仕草や話し方を見ると、その人が大体、何を考えているのか、どういうふうに仕事をしてきた人なのかが分かります。

 藤田先生と初めて話したときは、相手の気持ちを読んで、それに合わせてうまく対応する人だとすぐ分かりました。言葉遣いが丁寧で、ちゃんと患者さんの目を見て話して、相手の気持ちを察しながら、ポイントを的確に説明してくれる。別にジャーナリストじゃなくても、藤田先生と話せば、多くの人が「信頼できる先生だ」と思うでしょう。めちゃくちゃ忙しいのに、手術後の患者を集めて勉強会までやっている人ですから。

 ただ、藤田先生はマスコミにもほとんど出てないですし、詳しい経歴も分からなかったんですよ。それでも実績については、調べればかなり正確に推定できました。その上で、本人と直接会って、話すことですね。