脱炭素社会への「トランジションエネルギー」として、LNGはすでに世界各地で争奪戦の様相を呈している脱炭素社会への「トランジションエネルギー」として、LNGはすでに世界各地で争奪戦の様相を呈している Photo:Bloomberg/gettyimages

脱炭素ブームで二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないLNG(液化天然ガス)の争奪戦が世界で繰り広げられ、価格が高騰している。LNG価格高騰の震源地は、日本からはるか遠く離れた欧州だ。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

この4カ月で倍以上の高騰
関係者の脳裏をよぎる昨冬の悪夢

 LNG(液化天然ガス)のアジアスポット価格の指標であるJKM(ジャパン・コリア・マーカー)が、上昇している。

 JKMは3月1日に5.57ドル/MMBtu(百万英国熱量単位)を記録し、その後上昇傾向に入った。6月には10ドル台を突破し、7月1日時点で14ドルを超えた。

「嫌な予感がする」。JKMが上昇するチャートを示すパソコン画面を見つめた大手新電力幹部の脳裏には、電力業界を襲ったあの“悪夢”がよぎった。

 悪夢とは、2020年末から21年初めにかけてのことだ。

 電力会社が顧客に販売する電力を仕入れる「日本卸電力取引所」(JEPX)のスポット価格が、例年の10倍を超える100円(24時間平均)を連日記録し、逆ざやになって1日数千万円のキャッシュをあっという間に溶かした忌まわしい出来事を指している。

 JEPXのスポット価格爆騰は、予想を超える寒波が引き金だった。火力発電所の燃料であるLNGの在庫が予想を上回るペースで減少し、発電所の出力を絞ったことで電力需給が逼迫。JEPXのスポット価格爆騰につながった。

 さらに日本だけでなく、中国や韓国でも寒波の影響でLNG需要が高まったことは不運だった。アジアで歴史的なLNG争奪戦となり、JKMは今年1月中旬に過去最高の32.5ドルを記録した。