大手ビールメーカー4社の2021年上半期のビール類販売動向がまさかの前年割れだ。業務用市場の苦境を脱せられず、投資戦略の見直しを急いでいる。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
2021年上期ビール類市場
まさかの前年割れ
「苦境に陥る飲食店に対してさすがにやり過ぎだ。撤回されてよかった」
あるビールメーカーの幹部はこう安堵の表情を浮かべた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や時短営業で居酒屋業界は崖っぷちだ。
7月8日、西村康稔経済再生担当大臣が、酒の提供を続ける飲食店に対して、金融機関からの働き掛けや、卸などの酒類販売業者に取引停止を依頼する方針を公表。資金源と商材を断つという政府によるさらなる“居酒屋いじめ”について、業務用ビール事業が大打撃を受けているビールメーカーは神経を尖らせていた。
結局、世論の猛反発を受けて西村氏の方策は撤回に追い込まれたものの、飲食店と“運命共同体”であるビールメーカーの苦悩は続いている。
7月12日、ビールメーカー大手4社が発表した2021年上半期(1〜6月)のビール類の販売動向。その数字のあまりの“悪さ”に、業界で動揺が広がった。
コロナ禍の影響で20年上半期のビール類市場は、前年同期から約1割減少した。各社はそこが“谷底”で21年はある程度回復するだろうと目算を立てていた。
ところがふたを開けると、21年上半期のビール類の販売動向は、キリンビール2%減(前年同期比、数量ベース)、サントリービール11%減(同)、サッポロビール5%減(同)、アサヒビール8%減(同、金額ベース)と、大手4社はいずれも前年割れしたのだ。
巣ごもり需要などで家庭用市場が伸びたものの、外出自粛や飲食店での酒類提供制限などで、低迷する業務用市場を補うまでには至らなかった。「正直、前年よりも今期の数字が落ちるとは思わなかった」と、前出とは別のビールメーカー幹部は、想定以上の販売不振に戸惑いを隠さない。
ビール類の販売が伸び悩む中、各社は投資戦略の変更を余儀なくされている。
アサヒビールの松山一雄専務は、今後の投資方針について、「社内でも、ZBB(ゼロベース予算)をやっている。やるべきでないところは思い切ってやめていく。めりはりのある投資を展開していきたい」と力説する。
ビールメーカーの業務用市場で通常行われる投資の一つが、飲食店のサポートだ。例えば新店がオープンした際には、生ビールサーバーやジョッキを提供するなど、1店舗当たり10万円程度の支出はざらだった。これがコロナ禍の今はその機会がほとんどなく、投資費用が抑制できている。
では、業務用市場で浮いた金は、どこに向かっているのか。