中国の戸籍制度は、都市部と農村部の二つに厳格に分かれている。戸籍によって公共サービスや社会保障、教育機会など、さまざまな面で大きな差が生じる。そうした中、家や出身地に恵まれなかった人々にとって、「高考」というシステムは平等であり、自らの運命を変えられる数少ないチャンスなのだ。特に農村部の親は、自分たちと同じ運命をたどらないようにと子どもに大きな希望を託し、子どもは小さいときから多大なプレッシャーを抱えながら受験戦争に参加していく。

 このような背景から、高校の3年間は皆、命懸けで勉強する。それでも良い大学に入れる学生は、ほんの一握りだ。中国には世界から見ても知名度の高い大学がたくさんあるが、現在、4年制の大学は約1300校。その中で、「国家重点大学」(国が認める権威のある大学)はわずか10分の1ほどの約110校である。重点大学に入れば、政府機関や国有企業などの一流企業に就職できる可能性が高い。しかし、今年の出願者は過去最多で1078万人。毎年1000万人に近い出願者がいる中、非常に狭き門である。

 競争が激化する中、統一試験で好成績をたたき出すことに特化した高校もある。河北省衡水市にある衡水中学(高校)は、「高考工場」「受験訓練所」「鬼の強制収容所」などと呼ばれ、全寮制でスパルタ教育を行い、高い進学率を実現している。高校3年間で休日はほぼなし。毎日のスケジュールは秒刻みで、忙しすぎて「歩くことが存在しない」といわれるほど。生徒は校内での移動でも常に走っているという。教室内に監視カメラがいくつも設置され、全ての生徒が学校の監視下にある。

 この学校にまつわるさまざまな伝説の中で、一番有名なのは、全校生徒約8000人が毎朝5時半に一斉にグラウンドをランニングすることだ。冬だとまだ薄暗い中で、「超越自我」「挑戦極限」など四文字のスローガンの号令をかけながら、足並みをそろえて前列にぴったりとくっついて走る風景は軍隊そのものだ。もし一人でも倒れたら、ドミノ倒しになる状況で倒れないように走り続けることには、集中力と緊張感を養う目的があるのだという。

 そのほか、自習時には眠気を払うため立ったまま勉強したり、服の着脱時間を省くため寝るときも着衣のままの人もいたりするなど、伝説の枚挙にいとまがない。そして、成績が悪かったら、教師から人格侮辱な言葉でののしられたり、体罰が行われたりすることも日常茶飯事だという。卒業生は「まるで地獄だった」と口をそろえる。人間の極限を試すような環境に耐えられず、退学する生徒や、体を壊す生徒が後を絶たない。

 ただ、全国の重点大学への合格率は毎年9割以上。清華大学や北京大学などの超一流大学の進学生徒数は数百人に上り、合格者数全国1位の実績を誇り、「奇跡をつくる学校」と称えられている。ここでの生活を耐えれば後の人生は「楽勝」だと、多くの親が心を鬼にして子どもを送り込む。現在、中国では、「衡水高校」をまねした学校が地方で続出している。