「自爆営業」阻止にも
会社本位の姿勢がくっきり

 年賀はがきを自腹で購入した後、金券ショップで換金するといった典型的な自爆営業の醜聞はもはや周知の事実だ。

 しかしここでは、社員への負担だけではなく、経営判断を誤らせるリスクや、金券ショップに商品が大量にあふれることによる「営業へのリスク」についてもしっかりと強調されている。どこまでも会社本位の姿勢が貫かれている。

 ハラスメントの禁止については、4ページにわたる重点的な説明がなされている。

 これは当然順守すべきものであり、ハンドブックでもセクハラなど実際にあった事例を取り上げて問題点を解説している。

 だが、郵便局の関係者は「ハラスメントを指摘すると左遷されるなど、内部力学が優先された事例もあった」と言い、ハラスメントの禁止の形骸化だけでなく、組織風土というそれ以前の次元で問題を抱えている懸念さえあるのだ。

 ハンドブックには、このほか金融商品に関する順守事項や顧客情報保護に関する注意事項、内部通報制度など、多岐に及ぶ内容が100ページ超にわたって示されている。その文章量こそ、日本郵政の課題の深刻さを物語っているともいえるだろう。

 実は、このハンドブックの冒頭には、こんな文言が記されている。

「これまでも関係規程類において、コンプライアンスとは、『法令等を遵守すること』であり、(中略)その結果、会社や一部の社員が『法令や社内のルールで禁止されていなければ問題ない』という考えから、お客さまの利益を損ない、社会からの期待よりも会社や自身の利益を優先してきたという反省があります」

 この問題点は、識者の指摘にも通じる。コンプライアンス問題に詳しい郷原信郎弁護士は、かんぽ生命保険の不適正募集問題に触れて、「法律違反ではなくても、広い意味で顧客のためになっているかという視点が欠如していたのがそもそもの要因だ。必要なのは、顧客の利益のための『コード・オブ・コンダクト』(行動規範)であり、ある種の誠実さだ」と指摘する。

 確かに、社員40万人の巨大組織の末端に至るまで、コンプライアンス意識を丁寧に浸透させるのは難しい。だからといって、会社本位のコンプライアンスを社員に一方的に求めたところで、健全な風土改革など望めるはずもない。

 まずはガバナンスの健全化も含め、経営陣や幹部陣がその範を垂れるべきだろう。