転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。ビズリーチの急成長を支えてきたのが「問いを立てる力」と「問い抜く力」です。では「問を立てる力」とはどういうものなのでしょうか。本書に収録した学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事、小林りんさんの解説文を抜粋して紹介します。

ビズリーチ創業者南壮一郎氏を突き動かした「内なる問い」と「外向きの問い」『突き抜けるまで問い続けろ』の解説文を執筆した学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事の小林りんさん。本記事は小林氏の解説文を一部抜粋しています。

「問いを立てる力」とは何か。

 それは、「自分は何者か」を理解する力である。

 あなたには、想像するだけでじっとしていられないほどワクワクすることがあるだろうか。あるいは考えるだけで眠れなくなるほど憤りを覚えることはあるだろうか。時間を忘れて夢中になり、没頭するものはあるだろうか。

 喜び、怒り、哀しみ、楽しみ――。

 物事を突き動かすのは、実はロジックではなく、自分の内に秘めた感情だ。

 その思いを認識し、あふれ出てくる感情の裏に潜む自分の意志を自覚することこそ、私の考える「問いを立てる力」の本質である。言い換えれば、「自分が心からやりたいと思えることが何かを知っているか」ということだ。

 私の友人であり、本書(『突き抜けるまで問い続けろ』)の主人公である南壮一郎くん(私はいつも彼の英語のミドルネームであるスイミーと呼んでいる)もまた、問いの本質を本能的に理解し、卓抜した課題発見力を自然体で身にまとう同志である。

「問いを立てる」と言うと、一般には世の中に起きている課題を見つけ出す方法論だと解釈されることが少なくない。

 今後の社会の流れはどうなるか。産業構造はどう変わるか。時代の先を読み、想定される課題を特定する技術としての問いである。

 このアプローチを「外向きの問い」と呼ぶことにしよう。

 現代の企業の多くが社員に求めるのは「外向きの問い」を立てる力だ。MBA(経営学修士)のプログラムをはじめ、多くの経営戦略の基本は「外向きの問い」を目的としていることが多い。

 確かに、全体を俯瞰して課題を絞り込む力は大切だ。しかし、この力を鍛えるだけでは、自分が本当に取り組むべき課題に辿り着くことは難しい。心からやりたいと思える挑戦かどうか、気づくことができないからだ。

 自分が本当に取り組むべき課題。

 それは冒頭に示したように、内省を重ねて導き出した「内なる問い」と「外向きの問い」との接点に、湧き水のようにあふれ出すものだと感じている。二つの「問い」の答えがぴたりと一致したとき、人は大きな山を動かす力を獲得するのではないか、と。

胸に抱いた憤りが原動力に

 かくいう私も、2009年に長野県軽井沢市で学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンという全寮制の国際高校を創立したのは、「内なる問い」と「外向きの問い」が自分の中でつながったからにほかならない。

 高校時代、日本の教育に疑問を持った私は、通っていた高校を中退し、奨学金でカナダの全寮制高校に留学した。そこで出会ったメキシコ人の友人の実家を訪れて、衝撃を受けた。貧困、汚職、暴力と隣り合わせの生活。世界に厳然と存在する格差を目の当たりにした。

 社会人になり、モルガン・スタンレー証券で金融の知識を身に着け、大学院留学や国際協力銀行を経て、国際連合児童基金(ユニセフ)で念願の仕事に就いた。フィリピンに赴任し、ストリートチルドレンの教育支援に携わった。

 しかし、格差の根本解決にユニセフでできることには限界があるかに思えた。社会の仕組みを変えるには、より抜本的な対処が必要だと痛感した。そしてその実現には、社会を変革するリーダーが必要だと。既往路線を踏襲しない、チェンジメーカーを育てる教育の重要性を認識するようになった。2007年ごろのことだ。

 日本でも、社会を変えるリーダーの重要性が叫ばれていた。かつての経済成長を支えたシステムがあちこちで制度疲労を起こし、地盤沈下が止まらない。打ち手として「人づくり」の重要性を叫ぶ人、「教育改革待ったなし」と論じる批評家は多かったが、具体的な解決策を示せている指導者は見当たらなかった。

 そんな最中、スイミーと私の共通の友人から紹介されて出会ったのが、共同創立者となる谷家衛氏だった。

「必要な変革が次々に生まれる社会の実現に、教育を通じて貢献したい」という私の「内なる問い」と、「教育改革の必要性が叫ばれるようになって久しいものの、担い手が不足している」という「外向きの問い」が一致した。この瞬間、軽井沢に次世代リーダーを育てる全く新しい学校を創立するプロジェクトが始まった。

 スイミーもまた、「内なる問い」と「外向きの問い」を意識しながら、やりたい仕事をいつも追い続けてきたのではないかと思う。同じ職場で働いたモルガン・スタンレー時代から数えると、20年以上の付き合いになる。

ビズリーチ創業者南壮一郎氏を突き動かした「内なる問い」と「外向きの問い」ビズリーチ創業者の南壮一郎さん

「僕、スイミーです。よろしく!」

 初対面から新卒らしからぬ大きな態度で周囲を驚かせた記憶は、今も鮮明だ。

 配属された部署は違ったが、同じプロジェクトで朝から晩までよく働いた。米国が目覚める前に徹夜で資料を仕上げ、明け方のオフィスで、寝ぼけまなこのままカップラーメンをすすったのもいい思い出だ。多忙を極める中でも、仲間と一緒に異業種交流会を主催したりして、よく飲み歩いていた。

 スポーツビジネスに並々ならぬ興味を持っていて、2年でモルガン・スタンレーを辞めた後、別の金融法人に身を置きながら、米国のメジャーリーグ球団に手紙を書いて就職を直談判したという話を聞いたときは、彼らしい行動力だと感心した。

 それが叶わなかった後も夢をあきらめず、楽天イーグルスの創業メンバーに名を連ねた。立ち上げに目処が立つと、自ら転職先を探した経験を踏まえて、採用する企業側ではなく、転職する個人側をメインクライアントに据えたビズリーチを創業した。会社はみるみる成長し、創業から12年で社員は1400人規模になった。

 その間も次々と新事業を立ち上げ、2021年春には株式を上場し、今も新しい事業を仕込んでいるという。現状に満足せず、「自分の好きなときに、好きな仲間と、好きなことをしたい」という彼の生き方は、まさに「問いを立てる力」を地で行く人生そのものだと思う。
(2021年7月30日公開記事に続く)