転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。「ビズリーチ」を一躍有名にしたのがテレビCMです。現在では当たり前のようになったタクシーの動画CMに最初に挑戦したのも実はビズリーチでした。『突き抜けるまで問い続けろ』第五章の内容を一部編集して紹介します。(本文は敬称略)

■CM誕生秘話01回目▶「ビズリーチのテレビCM、窮地に追い込まれて打った最後の大勝負だった」
■CM誕生秘話02回目▶「ビズリーチ、調べ抜いて見つけ出した「テレビCMの成功パターン」」
■CM誕生秘話03回目▶「テレビCMでおなじみの「ビズリーーーチ!」ポーズはこうして生まれた」
■CM誕生秘話04回目▶「ビズリーチ、テレビCM放映初日の問い合わせはゼロだった」
■CM誕生秘話05回目▶「テレビCMを博打から科学的なマーケティング手段に変えたビズリーチ」

スタートアップにおなじみのタクシー動画CM、発案者はビズリーチPhoto: Adobe Stock

(前回までのあらすじ)窮地に追い込まれていたビズリーチ創業者の南壮一郎は、最初で最後の大勝負としてテレビCMに挑戦する。印象的なポーズも決まり反応も上々。ビズリーチの知名度向上に大きな効果を果たした。テレビCMの効果は意外なところにも広がっていった。

タクシーCMのお手本に

 ビズリーチのテレビCMには、さらに続きがある。

 1本目のCMを打った翌年のことである。南はある会議に向かうため、タクシーに乗ると、目の前のモニター画面に広告が配信されていた。脱毛やエステの広告が目に付いたが、ふと、見知っているコンテンツが目に入る。経済誌『フォーブス』の記事だった。

「タクシーの乗客とビズリーチの会員はドンピシャで合うはずだ」

 ピンときた南は、旧知の間柄の日本交通会長の川鍋一朗に連絡を取った。

「うちのテレビCMを流していいですかと相談したら、はいと即決してくれた。それも破格の値段でスタートさせてもらえた」と南は言う。

 結果的に、このタクシーのCMはビズリーチの代名詞と言える取り組みになった。あまりの反響に、その後のスタートアップはタクシー車内にこぞって広告を出すようになる。

 企業向けのCMは、社名と印象的なポーズを繰り返し、タクシー車内の広告とも連動させる。南らが構築したこの形は、いつしか「ビズリーチ・フォーマット」と呼ばれ、スタートアップを中心に、効果のあるCMの「型」として広く浸透していくことになる。

地道な活動がCMを支えた

 CMの成功によって、ビズリーチの名は一躍、世間に浸透した。ダイレクトリクルーティングという言葉も広がり、直接採用というスタイルは、人材採用の一つの手法として認知されるようになった。

 絶大なCM効果の裏には後日談がある。

 首都圏で放映したCMの勢いをかって、ビズリーチは地方でも同じCMを打ったが、こちらは反応がいま一つだった。首都圏では大きな反響があったのに、なぜ地方都市は効果がなかったのか。

 分析した結果、放映地域での地道なマーケティングや営業活動の有無が、テレビCMの効果に大きな影響を与えることが分かった。「首都圏では何年もの間、ネット広告や営業活動で地ならしを続けてきた。地道な地上戦を続けてきたからこそ、テレビCMという空中戦の成果が出た」と南は語る。単にテレビCMを打てば顧客が集まるというわけではないのだ。

 南はCMプロジェクトをこう振り返っている。

「企業向けサービスは創業以来ずっと赤字で苦しかった。何年かかってもあきらめないという気概で続けてきたし、企業向けサービスが収益化するまでは上場したくないとも思っていた。投資家は赤字事業はやらなくてもいいと言うからだ。そんな中でも企業向けサービスをやり切ることがビズリーチの存在意義でもあり、僕たちのこだわりでもあった。テレビCMをやらなかったとしても、成功するまで続けていたと思うけれど、その場合は結果を出すまでに何倍もの時間がかかったはずだ」

 スタートアップは、ブレークするだけではダメで、ブレークスルーしなければ、本当の意味で社会にインパクトを与えることはできない。

 CMの成功によって、企業ユーザーを着実に増やせるようになったビズリーチは、安定成長に向けた基盤を確立していく。2021年1月時点の累計導入企業数は1万5500社以上に達し、売上高に占める比率も、企業向けのサービスが、ヘッドハンター向けの売上高を上回るようになった。(終)