転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。「ビズリーチ」を一躍有名にしたのがテレビCMです。ビズリーチがテレビCMを大量に打つのは、それが費用対効果の分かるマーケティングツールだと把握できているからです。では具体的にどのように効果を検証していったのでしょうか。『突き抜けるまで問い続けろ』第五章の内容を一部編集して紹介します。(本文は敬称略)
■CM誕生秘話01回目▶「ビズリーチのテレビCM、窮地に追い込まれて打った最後の大勝負だった」
■CM誕生秘話02回目▶「ビズリーチ、調べ抜いて見つけ出した「テレビCMの成功パターン」」
■CM誕生秘話03回目▶「テレビCMでおなじみの「ビズリーーーチ!」ポーズはこうして生まれた」■CM誕生秘話04回目▶「ビズリーチ、テレビCM放映初日の問い合わせはゼロだった」
(前回までのあらすじ)窮地に追い込まれていたビズリーチ創業者の南壮一郎は、最初で最後の大勝負としてテレビCMに挑戦する。印象的なポーズも決まり、いざ放映が始まった。だが、テレビCM放映初日の問い合わせはゼロ。時間を置いて、じわりと効果を感じられるようになった。
CM効果を測定せよ
効果が見えてくる中で、(現ビズリーチ社長の)多田洋佑は営業現場の定性的な声をまとめていった。
「CMのおかげで稟議が通った」「CMに引かれて問い合わせた」……。
顧客の声は、すべて記録して南に報告した。
1ヵ月が経ち、CMの効果が少なくとも無風ではないという手応えを誰もが感じ始めていた。月末の数字を見ても、確かに売り上げや商談数は上昇していた。
ここで、南はさらに指示を出した。
「実際にどれくらいの効果があったのか調べてほしい。企業のリード数、商談数、契約成立までの平均時間、求職者の有料登録がどれだけ増えたのか。全部数字で出してほしい」
これは、CMを制作する前にヒアリングしたラクスル社長の松本のアドバイスに基づくものだ。同時に南が楽天イーグルス時代、楽天グループ代表の三木谷浩史から受けた教えでもある。成果を測る方法を考えること。ここで指名されたのも中嶋孝昌(現ビジョナル・インキュベーション Logitech 推進室室長)だった。
中嶋はまず、CMを放映しなかった場合の売上高を、前年の傾向を参考にしながら予測した。それと比較して上振れしている収益部分がどのような経路によって実現したのかを、一つひとつ見ていった。
例えばCM放映後、ネットで「ビズリーチ」という検索が増える。その検索から、実際にどれくらいの企業の人事担当者から問い合わせがあったのか。セミナーやウェブ、電話など、動線ごとに細かく調べていった。同時にどのくらいの求職者が登録し、職務履歴書をアップロードしたのか、CMの効果を予測した。
結果は、衝撃的だった。3ヵ月で投資金額の大半を回収でき、半年で投資額を上回る効果が出るという予測結果が出たのである。
これを報告すると、南も耳を疑った。「何度も本当か? と繰り返していた」と中嶋は言う。予測結果には自信があった。
「ビズリーチはインターネットビジネスなので、一般的な商材よりも結果を数字で測定しやすい。大きな誤差があるわけではなく、限りなく実態に近いレベルまで予測モデルを落とし込めた手応えはあった」
これはいけるかもしれない――。
社内は、にわかに沸き立った。実際にテレビCMの効果が見えてきた2016年4月ごろ、南は一気に勝負を仕掛けると決めた。5月、6月、7月と3ヵ月連続で怒涛のようにテレビCMを放映した。
ブレークではなくブレークスルー
「効果がブラックボックスだ」と考えていたテレビCMも、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回してデータを蓄積していくと、ある程度の費用対効果が測定できる。この事実は、南にとって最大の収穫となった。
テレビCMは博打ではなく、永田がビズリーチ創業当初に実践したオンライン・マーケティングと同じように、費用対効果の分かるマーケティング施策に変えることができるのだ。
「どのタイミングで広告を出せばいいのか。どのサイト経由だと契約を取りやすいのか。どのタイミングで回収できるのかを、データに基づいて判断できるようになったことが、一番大きかった。投資効果を予測できるようになった結果、継続的にCMを打つかどうか判断できる。看板や雑誌などのオフライン広告にも躊躇なく挑戦できる」と南は言う。
一般に、テレビCMは短期的な売上増に効く投資ではなく、中長期的にブランド資産に効果が出る投資だと言われている。それを南が腹落ちして理解できたのは、効果測定で実際に数字が見えたからだった。
テレビCMはビズリーチの知名度向上に大きく寄与した。
それまでは1割にも満たなかった「ビズリーチ」というサービスの認知度は、採用担当者(関東エリア)に限れば9割を超えるまでに上昇した。
それに留まらず、ビズリーチの企業名やサービス名は社会に広く知られるようになった。CMの成果は次第に営業に効くようになり、「ビズリーチ」を指名する企業も増えていった。
「CM放映以前は、大半の企業が人材紹介会社で十分間に合っていると門前払いだったのが、CM放映後は話を聞いてもらえるようになった」と多田は言う。
サービスに対する信頼性、顧客の認知度は一気に高まり、気が付けば、立ちふさがっていたダイレクトリクルーティングの壁を打ち破りつつあった。
(2021年7月28日公開記事に続く)