デルタ株はどこまで拡大する?
日英の感染状況を考察

 さて、そのような状況下で猛威をふるう変異種によって、未来がさらにどうなるのか、新たな不安を覚える人もいらっしゃると思います。そこで5番目の予測、「変異種のデルタ株が猛威をふるう可能性は高いが、その被害も限定的で収まるはず」についての根拠を見てみましょう。

 デルタ株はインドで広まって、インドの旧宗主国であるイギリスにも広まりました。イギリスの感染状況は以下のグラフの通りです。

メダルとコロナの「Wラッシュ」で、日本に起こる3つのこと図3 イギリスの週ごとの感染者数と死者数(WHOデータを基に筆者作成)
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 アメリカと違い、イギリスではワクチンで収束したはずの新型コロナが5月になって急拡大しています。この急拡大分の大半を占めるのがインド発祥の変異種・デルタ株です。

 ロックダウンが徹底されたイギリスで、なぜここまで変異種が広まったのか?イギリスの専門家によれば、渡航者の多さがイギリスのデルタ株パンデミックの原因になったといいます。ワクチン接種が進み、ビジネスに関する海外渡航のルールが緩和された時期と、デルタ株の流行が始まった時期が重なっているからです。

 そして、このことは東京にとっても非常に悪いニュースです。なぜならこの7月、東京には世界中から五輪関係者が集まってきているからです。

 私は「選手村は大丈夫だ」と言いましたが、問題は大会会場を埋め尽くしている大会関係者です。言い換えればジャーナリストとスポンサーということになるのですが、こういった方々は選手とは異なり、組織委員会もその行動をコントロールすることは実質的に不可能な状態になっているのは読者の皆様もご存じの通りです。

 すでにデルタ株は東京の発症でも3割まで増加してきていて、そのリスクは五輪開催で当然のことながら急上昇しています。

 問題はワクチンが効くかどうかですが、報道によるとイギリスで変異種に感染した人の中には、ファイザー以外にアストラゼネカのワクチン接種者も多いようです。2度の接種でファイザーがデルタ株に対して88%の有効性であるのに対して、アストラゼネカは60%の有効性にとどまるといった研究結果もあります。このあたりワクチンメーカーの構成が違う(ファイザーとモデルナ)東京の場合、デルタ株の被害はイギリスほどにはならない可能性はあると思います。

 そして、私が一番重視しているのは、デルタ株がまん延し始めたイギリスのグラフでも死者数は収束している点です。これから先、デルタ株についていろいろなことが分かってくると思いますが、報道によればワクチンを接種している場合、感染はしても中症化も重症化もしにくいという研究発表があり、その点については東京にとって明るい予測要素になりそうです。

 実は「ワクチン接種が進むことでコロナの死亡リスクが大幅に減る」ということは、コロナ対策の前提条件の変化を意味します。これまでは「免疫がないために感染しやすく、感染すると死亡リスクが大きい」という前提で新型コロナは新型インフルエンザ等感染症に指定されています。

 法定の感染症であるがゆえに、治療現場では医療関係者の負担が高くなっています。しかし、医療関係者も入院患者の多くもワクチン接種が進んだという新しい前提下では、この対応の見直しを早めたほうがいいかもしれません。なぜなら医療現場では新型コロナの第5波拡大にともない、「それ以外の救える可能性がある命が救えなくなる」という危惧が高まっているからです。

 日本はコロナという病との共生を考えるべき段階に来ていると、とらえるべきではないでしょうか。