この問いの中で一番気になったのは、「学生時代のクラブ活動」でした。私が質問の意図を聞いてみるとレッドスターは、「何となく…」と素っ気なく答えました。全く腑に落ちませんでしたが、私の回答自体には特に問題がなかったようで、雇用契約に必要な書類データをメールで送るので、記入次第FAXで送るよう指示があり、電話は切れました。実に慌ただしく、ぶっきらぼうな3分弱の電話でした。

 その数分後にメールが来て、指示通りの対応を済ませると、またメールが来ました。

 メールを開くと「明日朝6時、○○○(コンビニの住所)、△△△(車のナンバー)、地味な服装」とだけ書かれていました。「淡泊すぎないか!?」と思わず声に出してしまいました。

 私は流れで人生初の就職をし、探偵見習い時代が始まりました。

早朝のコンビニで待ち合わせ
爆音の音楽をBGMに眠るレッドスター

 翌朝、私は指示通りの大田区の環七沿いのコンビニに、5時25分に到着しました。駐車場には1台の車が止まっており、ナンバーを見るとメールに書いてあった数字でした。

 車に近づくと運転席をべったり倒して男性が眠っていました。エアロスミスが大音量でガンガンにかかっていましたが、その男性は明らかに熟睡していました。その男性がレッドスターであるとは思いましたが、念のため電話してみました。

 放り投げられたように置かれたガラケーが助手席で光っており、その画面が見えました。そこには私の電話番号と、オオカミという文字が映っていました。私は正直ゾッとしましたが、直後に感心しました。

 なぜなら、私はレッドスターに芸人をやっていることは伝えていましたが、そこから私のコンビ名である「オオカミ少年」にたどり着き、3分弱の電話面接の後にしっかり調べていたこと。さらに、万が一ガラケーを紛失した時には、曲がりなりにも人前に立つ仕事をしている私の職業を鑑みて、私の電話番号であると特定されるような登録名にはしないという、きめ細やかな対応をする人だと分かったからです。

 感心したのも束の間、“エアロスミス爆音”の中で寝ているのだから、着信音に気づくはずもないと思い……、ちょっと迷いましたが、私は窓をコンコンとノックしました。しかし、全然起きません。窓をたたくこぶしに力を込め、ゴンゴンとノックしましたがそれでも起きません。

 ドアを開けようとすると、窓がスーッと開き、レッドスターはうるさいなという顔で「後ろに乗って」と言い、私は助手席側の後部座席に乗り込みました。ドアを閉めた後、すぐに出発するのかと思いきや、レッドスターは二度寝に入っていました……。