あるとき、その同僚が、上司に企画書を見せながら説明しているのが見えた。席が近く、声も丸聞こえだったため、自分が練った企画書そのものであることが分かった。本当の発案者に聞こえているのが分かるはずなのに、自分ひとりで思いついたような説明を得意げにしている。そして、「いいじゃない、それでいこう。なかなかいいアイデアだな」と上司からほめられているのだ。

 ずるいじゃないかと思ったが、その場で、「それ、共同企画になると思って私が発案したんですけど」と言うのも気まずいし、言えなかった。しかし非常に嫌な感じがして、その同僚に対する不信感が募った。

 そのように語る人は、「でも、なんであんなことが平気でできるのか、理解できません」と首をかしげている。

平気で部下に責任をなすりつける上司

 このように人の手柄を平気で横取りする人物は、何かまずいことがあったときには平気で責任を人になすりつける。

 よくあるのが、上司の指示に従って事を進めたにもかかわらず、それがまずかったとなると、「そんな指示をした覚えはない」と言ってハシゴを外される、といったパターンだ。

 うちの課長がまさにそれだ、という人がいる。課長の指示通りに動いた結果、その判断が甘かったようで、トラブルが生じた。「部長に呼ばれたから一緒に来てくれ」と課長に言われ、なぜ自分まで行かなければならないのかと思ったが、仕方なくついて行った。

 すると課長は、部長に謝罪した後、こっちに向き直って、「ところで、なぜ君は勝手にそんなことをしたんだ!」と非難がましいことを言う。部長が目の前にいるため、はっきり反論しにくく、遠慮気味に、課長の指示に従って進めたということを説明すると「何か勘違いしているんだろう。私はそんな指示をした覚えはない。何かするときは逐一相談してくれ。勝手なことをされちゃ困るなあ」などと、とぼけたことを平気で言う。

 部長の前で、それ以上見苦しいやりとりを見せるわけにもいかないので黙ったが、課長に対する不信感は極限に達したという。その人も、「なんであそこまで露骨にズルいことができるのか、その気持ちが分からないのです」と不思議がる。

 じつは、人の手柄を平気で盗む場合も、平気で人に責任をなすりつける場合も、そこには同じ心理メカニズムが働いているのである。