社長の信頼厚い管理職のはずが…
徐々に見えてきた「裏の顔」

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

一見、人当たりもいいはずが…。裏で部下の手柄を横取りしたり、一部の部下には高圧的に仕事を押し付ける。「フリーライダー(ただ乗り)管理職」は決して珍しいケースではない

 職場では、一見問題なさそうな人にみえても、実際に仕事をしてみるとトラブルの種になるというケースがよくある。そういった問題は、外側からはなかなか観察できない。そんなケースを紹介しよう。

 Aさんは、数ヵ月前に小さな出版社に非正規で入ってきた女性だ。10年以上、大手企業の人事や総務で働いていたが、夫の転勤を機に退職した。新しい土地では、子どもがまだ小さいため、フルタイムでは働けず、やむを得ずパートタイムの職をさがし、その出版社に採用されたのだった。

 小さな出版社で、主な業務はローカルニュースやタウン情報をなど、タブロイド紙を制作する仕事だ。彼女の業務は、レストランやイベントなどを取材して載せるタウン面を埋めることだ。

 彼女の直属の上司のB氏は、それ以外の記事と実質的な紙面統括を担当し、その上には社長のC氏がいて、社長自ら記事を執筆している。だが社長は家が離れたところにあり、会社にはめったに顔を出さないため、現場統括はB氏に任せている。

 Aさん、B氏、C社長の書いた記事をレイアウトするのが、Dさんという女性社員だ。最終的に記事はすべてDさんのもとに集まってくる。Dさんはその記事と、別部署の営業部がとってくる広告枠を合わせて最終レイアウトを作り、印刷所に送るのが仕事だ。

 Aさんは入社してしばらく、B氏に直接取材の仕方や文章のチェックなどをしてもらっていた。朴訥な感じのB氏は、面倒見がよく、校正の指示も的確で、Aさんは、よい上司だ、という印象を持ったという。

 ところが、そのB氏について、他の社員からはあまり良い話を聞かない。レイアウト担当のDさんは、B氏と口をきこうともしない。また営業担当の人々は、時にB氏と大喧嘩することもあるという。Aさんは不思議に思っていた。なぜ、皆これほどB氏と揉めるのか、理解できなったからだ。

 とはいえ、B氏はその社において要の人物だ。社長であるCさんとの直接連絡はほとんどB氏が行い、社長が行う記事の最終判断もB氏を通して伝えられる。したがって、Aさんは基本的に最も密接にB氏と連絡を取りあうことになっていた。

 勤め始めて2ヵ月ほどたち、Aさんが一通りの仕事に慣れてきたころ、妙な点に気づいた。社長のCさんから、Aさんに、タウン面だけでなく、別の紙面づくりも手伝ってほしいとの連絡がきたのだ。本来そこはB氏の担当なのだが、B氏が忙しすぎて手が回らないからだという。それならば理解できるのだが、C社長のAさん宛のメールには「Aさんはまだ余裕があると思うのでお願いします」と書いてあったのが気にかかった。

 2ヵ月仕事をしてきて、いまやAさんは社で最も精力的に取材に行き、記事もどんどん上げて、その機動力と生産性はB氏を上回っていたからだ。B氏は外信記事の翻訳等がメインなのでデスクワークが中心だが、いつも記事はぎりぎりになってから届き、埋まらないこともあった。そんなときはAさんが書き溜めていた記事で埋め合わせることもあった。

 そのB氏が、なぜぎりぎりになるまで記事を入稿できないのか、Aさんには理解できなかった。独身で時間が自由になるB氏は、取材に追われているわけでもない。家庭を持っているAさんやDさんのほうがずっと時間の効率化に腐心している。早い話が、サボっているようにしか見えないのだ。