日本の医療は世界最高だと思っていたけど…つらい現実

 翌日、複数の医療関係者に相談してみた。しかし、高熱が続くなら、救急車を呼ぶしかないというアドバイスだった。救急車を呼んでも、受け入れてくれる病院がなければ、無理だろう。「日本はすでに重症にでもならないと、とても入院させてもらえそうにない」と医療現場の厳しさを認識した。

 さらに、Gさんは、次のような本音も打ち明けてくれた。

 「私も救急車を呼んでも病院に入院できないことを知ってから、ようやく問題の深刻さを理解しました。これまでずっと日本の医療システムは世界最高だと信じていましたが、いまはこの神話が崩れました」

 無力感に襲われた私も、このむごい現実を受け入れるしかなかった。しかし、幸いなことに8月1日午後、Sさんはようやく入院できた。レントゲン検査を受けたら、肺はすでに白く覆われている。

 「白茫々だ」とSさんは病院から検査の結果を知らせてくれた。絶望的な一言だ。青年時代、黒竜江省の農村に飛ばされ真冬の大雪原を描写した言葉が、白茫々だ。新型コロナウイルスの深刻さを印象付ける形容だった。

 入院後も高熱がさらに2日間続いたが、3日目になってから体温はようやく37度台に下がってきた。酸素の吸入はしているが、「たぶん、人工呼吸器の世話にならずに済むかも」と喜ぶSさんの連絡があった。

 私はこれまで、日本の医療システムに全幅の信頼を寄せることができると信じていた。もし、GさんからのSOSがなかったら、医療現場はすでにここまで崩壊の崖っぷちに立たされていることを認識できなかったかもしれない。