ただし、その選択が生む状況の悪化を念頭に置いて、米国は同時に(4)キューバ侵攻と(5)空爆の大規模な準備をも進めていた。それで、(4)キューバ侵攻、(5)空爆、(6)海上封鎖という米国の攻撃を確実視したキューバのカストロが、ソ連に「米国を核兵器で攻撃してほしい」と依頼し、その結果フルシチョフは攻撃した場合の全面戦争の勃発を認識して、恐怖を感じ、ミサイル撤去を決定したのである。合理的アクターモデルでは、米国の政策は成功したと解釈できる。

規則通り動く組織人の行動結果、
組織行動モデル

 組織行動モデルとは、政府の行動は既存の規則に基づいて機能している巨大組織がつくり出した結果(組織成果)である、と考えるものだ。複雑な任務を遂行するには、多人数の行動が関わってくる。そのため、人員を動かす組織行動の標準的な規則が必要となる。

 だから、政府の行動は標準的な規則に従って組織の人員がそれぞれに行動した組織行動の結果なのであり、リーダーといえどもごく部分的な調整しかできない。つまり、リーダーが「こうだ」と言えばそうなるのではなく、既存のルールに従って大勢の人が組織として動いた結果、ことが起こると考えるのだ。

 国防総省やNATO軍などには緊急事態に備えた数々の計画と指令があり、事態の進展によっては、そうした計画が自動的に発動される可能性があった。しかもそれらには、大統領の直接支配が及んでいなかった。

 たとえば、トルコなどのNATO軍事基地の核武装戦闘爆撃機は緊急発進が可能であったし、ケネディが全世界の米軍にデフコン2(戦争が切迫していることを示す最高度に準じる準備態勢)移行を命じたため、戦闘準備として配置された核兵器が数千個にも上った。

 また、ヨーロッパと太平洋地域のQRA(即応警戒態勢)に基づく数百機の航空機は、核爆弾を搭載して離陸体制に入っていた。実は、こうした手続きに沿った行動がソ連を大いに刺激し、意図しない結果(核戦争)を招く可能性を飛躍的に高めていたのだった。