古巣への復帰
~設計から運営まで、キャリアを積んで、いざ経営の道へ~

黒田:私自身はそのタイミングで森ビル株式会社に転職しました。六本木ヒルズなどの開発をしている会社です。

入社した最初のチームでは、森稔社長(当時)から「六本木から赤坂、虎ノ門、新橋までを敷地として考えてみたら、どんな理想都市ができるか絵を描いてくれないか」と言われました。

飛行ルートや地震の関係で高層建築が難しい場所でも、地下をどんどん掘って地下空間を活かしていく方向で構想を膨らませ、グランドデザインとしてまとめました。

星:すごいですね。

黒田:次に関わったプロジェクトが2014年開業の虎ノ門ヒルズです。

このプロジェクトでは、開業後1年くらい運営も担当しました。

虎ノ門は働いている人が多く、住んでいる人が少ないまちでしたが、週末のヨガイベントにたくさんの人が集まるようになるなどの成果をあげました。

星:設計の仕事からキャリアをスタートし、ついに完成した建物の運営まで手がけるようになったんですね。

黒田:ちょうどそのころ、前職(都市デザインシステム)の創業者梶原文生さんと久しぶりに会う機会があり、「これからどう生きていくの?」と尋ねられました。

私は「ITをつかったまちづくりが面白いと思っています」と答えました。そうしたら、「それでいいのかな?」と言われてしまいまして。

星:ええ!?

黒田:梶原さん曰く「君は設計をやり、企画や開発もやり、運営の仕事も経験した。これだけ建築不動産のプロセスをいろいろやっている人はなかなかいない。君に今足りないのは経営の力じゃないか」。

星:経営ですか。

黒田:それまでは、経営の目をすり抜けてゲリラ的に活動することが楽しいなんて思っていたんですけど、確かに経営をやれるチャンスはなかなかありません。

その頃の都市デザインシステムはUDS株式会社と社名を変え、民事再生から10年の節目を迎えようとしていました。

創業者の梶原さんはいずれ退くことを考えていて、「いいタイミングだから戻ってこないか」と声をかけてくれて。それで、UDSに戻り、1年前の2020年から代表を引き継いでいます。

星:どんな思いで古巣へ戻る決断をしたのですか。

黒田:私が挫折を繰り返し、建築家をあきらめながらも、建築の仕事に関わり続けられているのは、この会社のおかげだったので、青臭いですけど、力になりたい、会社を次の時代につなげていきたいという思いがありました。

挫折を乗り越える4つのポイント

黒田:星くんの本を読んで、様々な挫折を経験しながら今に至っていることを知り、自分に重ね合わせていました。

星:黒田くんの人生のターニングポイントにも挫折がありますよね。

大学院に落ちる、建築の設計がうまくいかない、リーマン・ショックで会社が傾く。

それだけ挫折があったのに、なぜ折れずにすべて生き抜く力に変えることができたのでしょうか。

こういう心構えでいたからよかったというのはありますか。

黒田:次のことを考えるとき、必ず前のことと関連づけて整理するようにしています。

星:具体的には?

黒田:例えば、3年勤めた設計事務所を辞めるとき、建築の世界は10年事務所に勤めてから独立するのが当たり前の世界ですから、「その道を簡単に外れちゃうの?」という目で見られたりもしました。

しかし、コミュニケーションに力を入れたいからコーポラティブハウスのほうへ行くんだと、自分の中で理由を整理できていたのは大きかったです。

星:なるほど。前を向いたからといって、これまでと決別するわけじゃないんですね。

黒田:もう一つは、人に話すことです。自分の中で考えるだけじゃなく、人にどう説明するのかを考えます。人に話すことで、自分の中でも確信が持てるんです。

星:いいですね。整理すると、こんな感じでしょうか。

1.まず前を向く
2.次に一歩を踏み出す
3.さらに、以前のことから次のことを意味づけする
4.人に話す

黒田:そうですね。人は挫折を乗り越える過程で必ず成長します。

UDSでも、いい挫折をしている人と働きたいと思っているので、面接では「私はこれができます」よりも、「どういう失敗をして、どう乗り越えたか」を聞きます。