仕事でエクセルを使っている人は何百万人もいる。だが、そのなかで「エクセルマクロ」を使っている人は2割もいない。エクセルには「マクロ」という非常に便利で、効率的な機能があるにもかかわらず、それを使えている人はほとんどいないのだ。じつは「マクロを知っている」という人でも、学ぶ途中で「難し過ぎる…」「ワケがわからない…」と挫折していていく人がほとんど。せっかく便利な機能なのに、なぜ多くの人が挫折してしまうのか。今回は『4時間のエクセル仕事は20秒で終わる』の著者であり、エクセルマクロを使うことで複数の企業で驚異的な業務改善を実現してきた寺澤伸洋さんに「マクロの学び方」のコツを教えていただいた。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)
エクセルマクロがわかりづらい根本原因
――エクセルマクロを学ぼうとしても「途中で挫折した」という話をよく聞きます。どうして多くの人が挫折してしまうのでしょうか?
寺澤伸洋(以下、寺澤):実は私自身もマクロを学ぼうとして苦労した経験があります。そのときは、最初に教科書的な本を一冊買って、勉強しはじめました。まずはこういった本を買うという方は多いのではないでしょうか。
すると、専門用語がたくさん出てきます。「コレクション」「オブジェクト」「プロシージャ」など。「こういった言葉を知らなければ、マクロはマスターできないのか…」と思って一生懸命覚えようとしましたが、なじみがないのでよくわからない。
これが最初の大きな壁ですね。
――専門用語が多すぎるということですか?
寺澤:それも一つにはあります。それと根底で繋がっていますが、マクロを教えようとする人、あるいはそういう類の本は「マクロのしくみ」や「マクロの全体像」を網羅的に教えようとしているものが多いです。
教える人たちはたいてい、ものすごく賢かったり、エクセルにめちゃくちゃ詳しい専門家だったり。ですから、本人たちは全体像を理解しているのでしょう。ただ、それらを初心者に伝えようとすることはほぼ不可能です。
もちろん、「わかりやすく教えよう」という工夫はいろいろとなされています。ただ、「しくみを理解してもらう」「全体像を教えよう」という発想自体に無理があると私は思っています。
だから、多くの人がマクロを体験する前に、ほとんど挫折してしまう。
電子レンジを買ったときに、説明書すべてを読み込み、さらに「どういうしくみで料理が温まるのか」まで勉強しようとしたら、いつまで経ってもお弁当を温めることなんてできないですよね。それと一緒です。
――なるほど、すごくわかりやすいですね。
寺澤:もっともたいせつなのは、とにかく使ってみることです。「このボタンを押せば、お弁当を温められる」という操作を一つ覚えたら、とにかくやってみる。
マクロもまったく同じです。単純なものでいいから、マクロの操作を一つ覚えて、それをやってみる。その体験を繰り返していくことで、できることが一つずつ増えていけばいい。僕は今でも難しい言葉の知識ではなく「〇〇のときは××と書く」と必要最小限だけ覚えています。もちろんそれで仕事はまったく支障なく進んでいます。
『4時間のエクセル仕事は20秒で終わる』もこれに沿った教え方になっています。語学学習でも、文法や構文を理解してから「さあ、実際に話してみましょう」というアプローチと、とりあえずよく使うフレーズを覚えて、それをすぐ使ってみる方法があります。
これまでは前者的なマクロの本や講座がほとんど。しかし、私がやっているのは完全に後者です。何か一つ覚えれば、すぐに現場で使うことができます。
マクロにはさまざまな機能がありますが、じつはその9割はほとんど必要ありません。僕の20年以上の経験からすると、マクロ全体の1割でもマスターすれば、仕事における9割はカバーできます。
――そういうものですか!
寺澤:それはエクセルの関数を見れば、一目瞭然です。
エクセルの関数って、じつは500個近くあります。でも実際に使っているのは、多い人でも「SUM」「IF」「SUMIFS」「COUNTIFS」「VLOOKUP」くらい。つまり、大半の関数は使わなくても仕事はできる。
だからこそ、全体を網羅的に学ぶべきではありません。必要なところを、必要な分だけマスターして、自分が理解したところからどんどん現場で使っていく。そういった学び方がエクセルマクロには適しています。