女性のキャリアを支えていく“メンター”の役割とは?

 女性が自分自身にかけているアンコンシャス・バイアスから解き放たれ、“自分らしいキャリア”を構築するには、ロールモデルの存在が大きな支えになる。自身の経験からそう考えた池原さんは、2018年に新規事業となるプロジェクトを立ち上げた。これは、女性たちが自らのキャリアを育むためにロールモデルと出会う場であり、出発点は小さなワークショップだったという。そこでの手応えから「経験豊富なロールモデルが“メンター*5 ”として次世代のビジネスウーマンを支える仕組みを本格的につくれないだろうか」と思い至ったことが、社外メンター*6 を育成してマッチングするビジネスモデルに繋がった。

*5 株式会社Mentor Forの「メンター」は、メンティ(メンタリングを受ける人)の精神的支援、キャリア支援を行う存在で、リーダー・管理職経験と育児・介護・不妊治療などの多様なライフイベントの両立経験がある有資格者。女性社員のリーダーシップを引き出すだけではなく、マネジメントの意識改革や組織カルチャー浸透を手伝っている。(株式会社Mentor For ホームページより)
*6 企業と契約し、その企業の従業員をメンタリングするメンター。

池原 女性がメンターに求めているのは、まず“等身大のロールモデル”であること。完璧なスーパーウーマンの話は参考になりませんから(笑)。男性社会でいかに困難を乗り越えてきたのか、仕事とライフイベントをいかに両立させてきたのか――彼女たち(メンター)が、仕事と自己実現の両立を目指す女性に、そうした人生経験を伝えながら寄り添うことには大きな意味があります。

 メンターの役割は、メンティ(メンタリングを受ける人)の話を整理し、知見をシェアし、改善点をフィードバックすること。それによって、メンティは内省を深めて自己理解に至り、アンコンシャス・バイアスから脱したり、本来の自分が望むキャリアを見つけられるようになるのです。

 メンターの育成に力を入れる必要性から、池原さんは2018年に「ウィメンズキャリアメンターアカデミー」を立ち上げ、メンター志望者には3カ月の受講と選抜試験を義務づけた。今年2021年5月には、このアカデミーを一般社団法人ビジネス・キャリアメンター協会*7 として切り離し、さらなる内容の充実を図っている。コロナ禍によって企業内のコミュニケーションが激減し、メンターの需要増加を実感した結果という。現在、講座は増席しても足りないほどの注目を集めており、メンターを目指す男性からの問い合わせも増えている。

*7 一般社団法人 ビジネス・キャリアメンター協会 (BCMA)は、次世代のキャリア形成やビジネス推進を支援するメンターの育成、メンタリングスキルの認知向上、普及促進を目的としている。

池原 当講座の卒業生はすでに300人を超えて、そのうちの約30人が社外メンターとして活躍しています。メンターは、「自らの知見をシェアすることで次世代の役に立ちたい」というモチベーションを持っている方がほとんどです。

 その一方で、私たちは社内メンター(同じ社内の従業員をメンティにするメンター)の育成も重視しています。社内の人にはプライベートな事情を話しにくいというデメリットもありますが、社内事情に通じている相手だからこそ具体的な相談ができるというメリットもあります。社外メンターのメンタリングを受けた女性が社内メンターを目指すケースもあります。メンターとしての活動は自分自身の豊かさにも繋がるのです。