昨年(2020年)に続き、今年(2021年)の夏もコロナ禍が続いている。しかし、学生の就職活動そのものに「延期」や「中止」はなく、受け入れ側の企業も採用計画に穴が開かないように就活生たちに向き合っている。毎年、夏は、内定(内々定)を出した学生からの「辞退」の声を、企業の採用担当者が恐れる時期だ――昨今の、そして理想の「内定者フォロー」のあり方を、採用コンサルタント/採用アナリストの谷出正直氏に聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
「内定者フォロー」は、内々定の段階から行われている
「内定者フォロー」とは、採用が内定した学生(就活生)に対して、企業が何らかの目的とともにコミュニケーションを取っていくことだ。2020年までの「採用選考に関する指針」*1 に従えば、正式な内定*2 以降に行われていくものと思われるが、その実態はどうなっているのか。
*1 2013年(平成25年)に日本経済団体連合会(以下、経団連)が定めた「採用選考に関する指針」は、企業による会社説明会・面接・内定日などの解禁の時期を示したものだが、2021年に廃止(2021年卒業・修了予定者から廃止)となった。2016年から2020年の間に卒業・修了予定だった大学生(大学院生含む)に対しては、就職活動の解禁時期(企業説明会の開始など)を3月1日以降、選考開始時期を6月1日以降、正式に内定を出す日を10月1日以降としていた。これは、経団連に加盟する企業を対象にした自主ルールであり、強制力はなかった。今後、政府が中心となり、大学や企業・団体と協議のうえ、新たな指針が作られる予定。
*2 企業と学生の間で内定通知書と内定承諾書の授受が交わされることが多い。
谷出 「内定者フォロー」は、正式な「内定」通知を待たずに、「内々定」の段階から行うのが一般的で、就活生(以下、「学生」)に内定を承諾してもらうための「辞退防止」の意味合いも強いですね。学生が悩んでいる場合は、「うちの会社で一緒にキャリアを作りましょう」という姿勢で、採用担当者が「内定者フォロー」をするのです。
学生の「辞退」を防止することが「内定者フォロー」の大きな目的であれば、内定(内々定)を承諾してもらうためのフォローと内定(内々定)が承諾された後のフォローでは違いがあるはずだが…。
谷出 かつては、「10月1日に内定式を行えば大丈夫(辞退されない)」という風潮だったのが、いまは10月以降でも辞退されるケースが増えています。「内定通知書」があっても、「内定式への出席」があっても辞退する学生はいます。売り手市場*3 では、優秀な学生はさまざまな企業から「一緒に働きましょう」と誘われ、内定を持っている学生に対しても企業のアプローチが続いていきます。コロナ禍でも業界や従業員規模によっては、売り手市場になっています。また、最近は、通年採用をする企業が増えてきているので、学生にとっては門戸が常に開いた状態にあります。学生は、A社の内定(内々定)を承諾した後も「もっと良い会社があるのでは? 自分にいっそう合った会社があるのでは?」と思い、就活を何となく続けていくうちに、B社・C社からもアプローチが来る…結果、内定を承諾した会社に対して「辞退させていただきます」となるのです。だから、承諾があった後でも、「辞退防止」が「内定者フォロー」の目的のひとつになっています。
*3 「売り手」は学生(就活生)、「買い手」は企業を指す。求人倍率が高い場合は、学生(就活生)が企業を選びやすい売り手市場、求人倍率が低い場合は、企業側が多くの学生を選べる買い手市場となる。
谷出正直 Masanao TANIDE
採用コンサルタント/採用アナリスト
奈良県出身。筑波大学大学院体育研究科を修了。新卒でエン・ジャパンに入社。新卒採用支援事業に約11年間携わり、独立。現在は、企業や大学、学生、採用支援会社、メディアなど新卒採用や就職活動に関わる一方、約2700名と活きたネットワークを構築。企業の採用支援、企業や大学、学生に向けた各種セミナーや講演、研修などを行う。NHK、日本経済新聞など各種メディアに年間120本以上のコメントやインタビューが掲載される。NHK「クローズアップ現代+」に出演。筑波大学同窓会「茗渓会」理事。