上司や人事担当者が管理職候補の女性に対して…
政府は女性管理職の割合として30%を目指しているが、実際は12%程度*8 に留まり、民間調査でも「多くの女性が管理職になることを望んでいない」というデータもある。既婚・未婚を問わず、池原さんが多くの女性から打ち明けられるのも、「管理職には就きたくない」という思いだ。しかし、メンタリングを受けた女性たちの追跡調査からは、メンターの存在に支えられ、前向きな姿勢に変化していく様子が見て取れる。
*8 厚生労働省「令和元年度 雇用均等基本調査」より
池原 昇進に消極的だった女性が、メンタリングを経て意欲的になる姿を多く見てきました。いまの社会では “管理職”という言葉に、“スピード”や“決断力”といった“男性型リーダーシップにまつわるイメージ”がつきまとっていますよね。それに対し、組織内の女性に求められるイメージは“ケア”や“サポート”です。だから、女性が既存の男性型リーダーシップを発揮すると、「生意気だ」とか、「女子力が足りない」と揶揄されてしまうのです。
そうした違和感からリーダーになることを躊躇していた女性が、“自分らしいリーダーシップ”を大切にしてきたメンターから「無理に男性型リーダーシップに自分を合わせるのではなく、自分らしいリーダーシップで結果を出せればいいのよ」とアプローチされることで、自信を持てるようになるのです。女性が管理職に就きたがらないのは、出産や育児などライフイベントとの両立を懸念していることも確かに大きいですが、それだけではないことが伝わってきます。
もちろん、制度が整い、働き方が改善され、精神的な不安が取り除かれたとしても、すべての女性が職場のリーダーとして活躍することを望むわけではない。なかには、夫の収入で生活が安定しているなか、仕事に勤しむ必要性を感じない人もいるだろう。
池原 社会学者であるキャサリン・ハキムが「どのような集団にもキャリア重視の人が2割、家庭重視の人が2割いて、残りの6割は状況に応じて何を重視するかが変わる」という研究結果を報告しています。生き方は人それぞれなので、家庭を重視する2割の人を仕事に邁進させるのが良いことだとは思いません。ただ、残りの6割の人たちは、勤務先の状況に左右されるわけです。 “女性だから”というアンコンシャス・バイアスのせいでポテンシャルを生かせないのなら残念ですよね。潜在的にキャリアアップしたいという気持ちがあるのかどうかを、上司や人事担当者はしっかりと聞き出す必要があります。
そのときに注意すべきは、「自信がない」という言葉のニュアンスは往々にして男女で異なるということ。女性が「自信がない」と言って昇進を断るときは、決して自分の能力に自信がないのではなく、「子育てが大変な局面だから」など、タイミング的に「現在(いま)は難しい」と言っていることが多いのです。
なので、上司や人事担当者は一度断られてもすぐに諦めず、「どんなサポートがあればできるのか?」ということを、本人とじっくり話し合うとよいでしょう。