管理職になりたくない女性が、“メンター”の存在で変わっていく理由

少子高齢化による労働力人口*1 の減少を見据え、“あらゆる人の働きやすい社会”を目指す動きが加速している。なかでも、人口の半分を占める女性が活躍できるかどうかは経済成長の明暗を分けると言っても過言ではない。女性活躍推進法*2 の施行から5年あまり。取り組みが優良であることを示す「えるぼし」マークを取得した企業も増えているようだ*3 。しかし一方で、“女性管理職の登用に腐心する人事部”と“管理職に就くことを望まない女性”の間の溝など、さまざまな課題も浮上している。 “女性活躍”という聞こえの良い言葉の本質は、いったいどこにあるのか―― 。“メンター”の育成と企業マッチングで“女性活躍”を推進する池原真佐子さん(株式会社Mentor For 代表取締役)に話を聞いた。(フリーライター 棚澤明子、ダイヤモンド社 人材開発編集部)

*1 15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの(総務省統計局/労働力調査 用語の解説より) 労働力人口は近年増加傾向にあったが、2020年度は減少した。
*2 正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」。2019年(令和元年)5月29日に改正法が成立し、同年6月5日に公布された。
*3 2021年(令和3年)6月末現在のえるぼし認定企業は1381社

女性のロールモデル不在とアンコンシャス・バイアス

 池原さんがコーチングの専門知識を生かして起業したのは2014年。まさか、その2年後に、自身の妊娠と同時に夫の海外赴任が決まるとは予想もしていなかったと言う。悩んだ末、「女性は自分の仕事を辞めて夫についていくもの」という風潮には従わず、日本に残って1人で仕事をしながら子どもを産み育てることを決意。オンラインを駆使して夫と連携しながら、仕事と育児に奮闘した。そうした経験を経て、“女性がキャリアとライフイベントを両立させることの難しさ”を痛感したようだ。

池原 日本は公共サービスを含めて家事・育児のサポートが結構充実しているので、私自身の仕事と育児の両立はなんとかなりました。ただ、子育てをしながらキャリアを追求しようと思っても、日本にはそうした女性たちの働きがいをサポートするサービスがないし、そもそも、身のまわりにロールモデルがあまりいません。同じような経験を乗り越えてきた先輩女性と会い、話す機会があれば、私もどれほど助かっただろう…と思います。

「女性はこうあるべきだ」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)も根強い。他国では異性間でのアンコンシャス・バイアスが目立つのに対し、日本では女性が自分自身に対してバイアスをかける傾向も強いという。

池原 「夫の海外赴任に同行しなかった」選択がインタビュー記事で取り上げられたとき、ネットのコメント欄に「母親のくせに自己中心的だ」という声がありました。「女性はこうあるべきだ」というアンコンシャス・バイアスですね。そうした、他者のバイアスだけではなく、女性本人が「母親なのに仕事をがんばるなんて、家族に申し訳ない」という罪悪感に苛まれ、自らマミートラック*4 に乗っていくケースも多々あります。

*4 子どものいる女性が仕事と育児の両立は行うものの、組織における昇進・昇格とは無縁な働き方。ここでの「トラック」は乗り物ではなく、陸上競技などで使用する周回コースのこと。

管理職になりたくない女性が、“メンター”の存在で変わっていく理由

池原真佐子  Masako Ikehara
株式会社Mentor For 代表取締役社長
一般社団法人ビジネス・キャリアメンター協会 代表理事

早稲田大学、大学院で教育学・成人教育の修士号取得。NPO/NGO等でのインターンを経て、新卒でPR会社に。その後、教育関連のNPO、そしてコンサルティング会社に転職し人材開発に携わる。働きながらINSEAD( Executive Master in Change )でコーチング・組織開発で修士号取得。2014年に株式会社MANABICIAを創業し、エグゼクティブコーチングを中心とした組織開発事業を開始。出産・配偶者の転勤が契機となり、2018年、女性リーダー育成に特化した社外メンター育成・企業マッチングの事業「Mentor For」を新規事業として開始。ワンオペ育児や、ドイツと日本の2拠点生活を経て事業を拡大。2021年に社名を株式会社MANABICIAから株式会社Mentor Forに変更。同時に、キャリアメンター育成に特化した一般社団法人ビジネス・キャリアメンター協会も立ち上げ、メンターの普及促進、女性リーダー育成に貢献している。
「第8回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」ファイナリスト選出 (2020)、東京都 都知事賞「女性パワー翔き賞」受賞(2020)、「第5回女性起業チャレンジ制度」グランプリ受賞(2019)、ワーママ・オブ・ザ・イヤー受賞(2018)、英ユニリーバDOVEの欧州・南米プロモーション選出(2017)。