日本初の保険会社として1879年に創業した東京海上グループ――東京海上日動火災保険株式会社は、その経営理念のひとつに「社員一人ひとりが創造性を発揮できる自由闊達な企業風土を築きます。」と謳っている。「People’s Business」と言われる保険サービス業だが、社員“一人ひとり”の人材が成長していくシステムはどのようなものか? 人事企画部人材開発室の桜井武寛氏と菊地謙太郎氏に話を聞いた。(聞き手/永田正樹、構成・文/棚澤明子、撮影/菅沢健治)
>> 働き方の多様な時代にマネージャーに求められる役割とは?より続く
マネージャー研修における“3本の矢”の内容は…
永田 前回のお話から、人材育成において、(御社の)マネージャーの皆さんの力量が大きく問われることが伝わってきました。実際、御社では、年に1回、全マネージャー向けに実施するマネジメント研修、2011年から行っているリードマネジメント研鑽会、2019年に立ち上げた組織活性化実践塾という3種類の研修を“3本の矢”として、マネージャーの育成そのものにも注力されていらっしゃいます。まずは、リードマネジメント研鑽会について教えてください。
桜井 こちらは、いわゆる“ボスマネジメント”の対極にある“リードマネジメント”や“エンパワーマネジメント”を、マネージャーに考えてもらう場です。「他者を直接的に変えることはできない」という考え方に基づきながら、本人の欲求を汲み取って、そこから発意を引き出していくマネジメントスタンスですね。
東京海上日動火災保険株式会社
人事企画部 人材開発室 次長 桜井武寛 Takehiro Sakurai
2001年に東京海上火災保険株式会社入社。東京・大阪の企業マーケットにおけるクライアント営業のほか、商品管理部門、ロンドン駐在等を経て、2018年に現職に至る。人材育成関連施策の統括責任者として、方針策定など企画業務に従事する。直近の関心領域は「越境」と「大人の学び」。
永田 まさに、多様性の時代にふさわしい育成方法ですね。組織活性化実践塾はどのようなものですか?
菊地 組織活性化実践塾は、現場の課長とナンバー2の社員が半年かけて組織活性化に一緒に取り組む場となります。パンドラの箱のように、一人では怖くて開けられない、また、複雑ゆえに一人では対処できないと思われる課題があっても、一緒に取り組むことで共通言語が生まれ、不安も、目指したい世界観も分かち合うことができます。これはマネージャーにとっては非常に心強く、同時に部下にとっても大きな成長の機会になります。
永田 マネージャーと中核を担う社員がビジョンを共有し、その社員にうまくエンパワーできれば、若手社員など、他のメンバーもものを言いやすくなる。マネージャーには直接言えないことでも、若手社員は中核を担う社員に気軽に言える――つまり、心理的安全性が担保された職場づくりを目指されているということですか?
菊地 まさにそこです。部下は「マネージャーは何でも知っているのだから、何が起きても解決してくれるのが当然でしょう?」と短絡的に考えがちです。でも、実際のところ、マネージャーは部下には想像もできないような厳しい問題を一人で抱えていることも多々あり、孤独ですよね。そのうえ、責任は大きく、タスクも膨大にある。そうしたマネージャーの状況を部下が体感して理解することでチームが良くなっていく点でも、この組織活性化実践塾は意味のあるものだと感じます。
東京海上日動火災保険株式会社
人事企画部 人材開発室 課長代理 菊地謙太郎 Kentaro Kikuchi
2011年に東京海上日動火災保険株式会社に入社。仙台での地場企業・公務金融マーケット等の営業経験を経て、2017年に現職に至る。主にマネジメント施策、組織開発施策の企画・展開に従事する。