働き方の多様な時代にマネージャーに求められる役割とは?PHOTO:K.SUGASAWA

日本初の保険会社として1879年に創業した東京海上グループ――東京海上日動火災保険株式会社は、その経営理念のひとつに「社員一人ひとりが創造性を発揮できる自由闊達な企業風土を築きます。」と謳っている。「People’s Business」と言われる保険サービス業だが、社員“一人ひとり”の人材が成長していくシステムはどのようなものか? 人事企画部人材開発室の桜井武寛氏と菊地謙太郎氏に話を聞いた。(聞き手/永田正樹構成・文/棚澤明子撮影/菅沢健治)

VUCAの時代だからこそ、多様性を競争力にしたい

永田 御社は企業のDNA的に、人材育成への並々ならぬ熱意をお持ちですが、まずはその背景からお話しいただけますか? 

桜井 保険という“かたちのない商品”を扱う我々の仕事は、まさに“People’s Business”です。社員一人ひとりが生み出す信頼が競争力の源泉であり、一人ひとりの成長が会社の成長に直結している、という考え方ですね。経営戦略のなかに、ここまで人材育成を入れ込んでいる企業は珍しいかもしれません。

永田 2015年から掲げてこられた「日本で一番『人』が育つ会社」というビジョンを、今年(2021年)からの中期経営計画において「すべての社員が成長し続ける会社」に引き継がれました。「すべての社員」という一言に、どのような意味を込められたのでしょうか?

桜井 VUCA*1 の時代と言われるいま、我々に必要なのは多様性を競争力に変えていくことです。そのためには特定の社員が会社全体を牽引するようなかたちではなく、約1万7000人の社員全員がそれぞれ自分の歩幅で成長し、その総和を最大化していくことを目指したいのです。

*1 VUCAは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べたもの。

東京海上日動火災保険株式会社 桜井さま

東京海上日動火災保険株式会社
人事企画部 人材開発室 次長 桜井武寛 Takehiro Sakurai

2001年に東京海上火災保険株式会社入社。東京・大阪の企業マーケットにおけるクライアント営業のほか、商品管理部門、ロンドン駐在等を経て、2018年に現職に至る。人材育成関連施策の統括責任者として、方針策定など企画業務に従事する。直近の関心領域は「越境」と「大人の学び」。
 

菊地 “多様性”というキーワードを出す理由は2つあります。1つは、正解がひとつとは限らず、従来の“勝ちパターン”だけで勝負しても成果を出すことが難しくなってきている昨今、多種多様な人々の価値観や発想を組み合わせることで生まれるイノベーションが求められていること。もう1つは、「会社とは個の集合体である」という考え方が主流になり、働くことに対する価値観が人によって大きく異なりつつある時代のなかで、お互いに認め合い、刺激し合うことで新たな可能性を生み出していく必要があるということ。つまり、ビジネス上の必要性と時代背景という2つの視点から多様性を重視しているのです。

永田 なるほど。全社員一人ひとりの多様性を生かしつつ成長を促す、という考え方を大切にされているのですね。

菊地 はい。さらに言えば、先行きが不明瞭なこの時代においては、部下が上司を超えていくような成長をしなければ会社全体の成長は実現困難です。上司には、自分が経験してきたことをそのままなぞらせるような経験則重視の育成環境ではなく、本人の経験を最大限にその人の成長に繋げていくような環境づくりを目指してほしいと思っています。

東京海上日動火災保険株式会社 菊地さま

東京海上日動火災保険株式会社
人事企画部 人材開発室 課長代理 菊地謙太郎 Kentaro Kikuchi

2011年に東京海上日動火災保険株式会社に入社。仙台での地場企業・公務金融マーケット等の営業経験を経て、2017年に現職に至る。主にマネジメント施策、組織開発施策の企画・展開に従事する。