ダイバーシティの実現には組織の改革が不可欠

 女性が社外でメンタリングを受けてモチベーションを上げても、オフィスに戻ったら、男性従業員に「お茶をいれてよ」と言われたり、「キミもいずれは子どもを産むだろうから…」と管理職へのキャリアパスから外されたりするようでは何も変わらない。必要なのは、女性だけに意識改革を求めることではなく、組織風土そのものの変革を促すことだ。

池原 私たちは、女性に対するアプローチの次のステップとして、主に男性の管理職や経営層へのアプローチにも着手しています。男性が女性に対して持っているアンコンシャス・バイアスを解消するためのトレーニングや男女間の誤解を解くためのワークショップの開催などです。

 いま、機関投資家たちは明らかにダイバーシティに注目しています。「マネージャー層に女性がいない企業には投資しない」という投資家も増えていくでしょう。でも、女性活躍を意識して女性を数多く採用しても、男性中心の企業文化のせいで退職者が続出すれば、将来的にリーダーを担う女性の人材はいなくなってしまいます。そうした可能性を考えれば、女性側の意識改革だけではなく、採用から育成・登用・サクセッションプランまでを含め、経営戦略として女性活躍に取り組むことが緊急かつ重要な課題になりつつあると思います。

 女性の労働力人口はこの10年で約11%アップし、M字カーブはほぼ解消しつつあると見られている*9 。男女の従業員数が変わらない企業も増え、経験豊富な女性を社外取締役として迎える企業も多くある。けれども、池原さんは、こうした現状を「ダイバーシティに裏付けられた女性活躍の実現」とは捉えていない。理想とする姿はもう一歩先にある。

*9 「女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)は、結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという、いわゆるM字カーブを描くことが知られており、近年、M字の谷の部分が浅くなってきている」(男女共同参画局「男女共同参画白書 平成25年版」より)

池原 女性活躍の状況について、企業の経営者や人事担当の方の話を聞くと、うまくいっている理由として「社員の半数が女性」「育休復帰率100%だから、社内は子育て中の女性ばかり」、あるいは「女性の管理職はいないけど、社外取締役に女性を迎えた」といった声があります。

 でも、大切なのは女性の人数ではありません。経営方針を左右する意思決定層にどれだけ多様な女性がいるのか、ということなのです。もちろん、女性の社外取締役登用は素晴らしいことですが、執行側(管理職)に女性がいなければ意味がありません。さらに言えば、「マネージャー層に(女性が)いればいい」ということでもないのです。多様な価値観を持つ人たちの存在が重要。女性が多くいたとしても、男性と同じアンコンシャス・バイアスにとらわれていたら、ダイバーシティの意味はありません。

 たとえば、「採用時の面接官は男性、女性、LGBTQの方など、あらゆる人を入れるようにする」など、アンコンシャス・バイアスを事前に防ぐ“仕組み”をつくること――。個人の無意識下のバイアスは努力で防ごうと思っても限界がありますから、経営者や人事担当の方が“仕組み”を考えるのは大切なことです。