今井氏は「ライティングに重点を置くべき」とし、次のように話す。

「まずは、日本語の単語を英語の単語に置き換えて文を作るという発想を変えます。日本語の文は漢語名詞が中心となり、動詞に重点をおきません。一方、英語は動詞と前置詞を中心に文を作る言語です。そのため、『○○する』をそのまま英語に置き換えると変な文章になります。例えば『瓶がプカプカ浮かんだまま洞窟に入っていった』という文章は、ついA bottle entered the cave, slowly floating. と書きたくなりますが、英語母語話者はA bottle floated into the cave.と表現するでしょう。日本語では『入る』という動きの様子を擬態語の『ぷかぷか』で表しますが、英語はfloatのような様態動詞に方向を表す前置詞を組み合わせます」

 日本語の「歩く」にあたる動作でも、英語にはさまざまな歩き方を一語で表す様態動詞がある。ぶらぶら散歩する(amble)、よちよち歩く(toddle)、重い足取りで歩く(trudge)などだ。英語スキーマを獲得している人ならば、様態動詞を自分の語彙に取り込みやすく、この使い分けができるのだが、日本語スキーマしかないと、walkプラス修飾語で表現しがちだ。それではスキーマを獲得するには何をすればいいのか。

「スキーマは教わって身につくものではなく、自分で独習すべきで、そのためには単語の意味を探求する必要があります。このとき、日本語と英語の一対一の意味を知るだけではなく、一緒に使われる単語や、単語が使われる文脈、頻度、フォーマルな場面で使えるか否かなどを探っていくことが重要です。例えば、『追いかける』と訳されるpursueとchaseという2つの動詞があります。pursueはcareer, goal など、chaseはcat, ballなどと一緒に使われます」

 つまり前者は抽象的概念、後者は物理的に動くものが「追いかける」対象になるのだ。

「いくら珍しい単語を使っていても文脈的に間違って使われていれば、その人の英語力は低いとビジネスパートナーに判断されるでしょう。また、近年の英語は国際語にもなっているので、非母語話者にとってわかりやすい英語が求められています。したがって、多くの学習者の現実的な目標は、珍しい単語を幅広く知ることではなく、基本的な単語を適切な文脈で使えることでしょう」

 より“深く”単語の意味を知ることがスキーマ獲得につながる。獲得に役立つのはネットからアクセスできるコーパス(言語資料のデータベース)だ。サービスには『SkELL』『WordNet』などがあり、ここで単語を検索すれば多くの文例や類義語を見ることができる。

「自分がよく読むジャンルの英語記事や情報誌などをただ読むだけではなく、『なぜこの単語をこの文章で使ったのか』とコーパスなどを使って著者の単語選択の意図を深掘りするのはスキーマを作る上で有効です。そのように1ページでもいいので熟読し、まねをして書けば英語力は向上します」