日本史の偉人の知られざるエピソードを紹介し、「あの偉人がこんなやばい人だとは知らなかった!」と感想が多数寄せられている話題の本がある。『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』。累計59万部のベストセラーシリーズの最新刊だ。
本書のアンケートはがきを集計したところ、「やばい偉人」ベスト3が決定。監修者である東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏に、ベスト3にランクインした偉人のすごさについて改めて解説してもらった。(取材・構成:樺山美夏 初出:2021年8月29日)
第3位 大久保利通
近代日本の基礎を築いた明治維新のリーダー
近代日本があるのは大久保利通のおかげですから、やっぱり3位以内に選ばれましたね。大久保のすごさは、出世のためなら自分を殺してでも権力者を味方につけるほど、感情コントロールが優れていたところです。
薩摩藩(鹿児島県)の下級武士の子だった大久保は頭がよく、17才で藩の役人になりました。しかし、島津久光をめぐるお家騒動で父が流罪になり、自分もクビになってしまった。それなのに、大キライだった久光に囲碁を通じて取り入って、異例の大出世をして側近になったんです。
「将と射んとすればまず馬を射よ」って言いますけど、大久保はそれを地で行くタイプだったんですね。しかも、ただ碁を覚えて久光の相手をするだけじゃなく、最後は碁の名人くらいのレベルになったわけですから、立派な人ですよ。
大久保は久光を説得して、幕府と対立していた長州藩(山口県)と手を組み、明治維新をリードします。明治政府のトップとして、日本のしくみを近代化するさまざまな改革を実行したため、「明治政府の父」とよばれるようになりました。
しかし、47歳のときに暗殺されてしまった。そのあとは、伊藤博文や山縣有朋が日本をリードしましたけど、この2人は大久保に比べたら「勝るとも劣らず」の反対で「劣るとも勝らず」。だからやっぱり、大久保がもうちょっと長生きしてくれればよかったのに……と思います。
第2位 高橋是清
悪ガキから財政と政治のプロに! 七転び八起きの「だるまさん」
高橋是清は、七転び八起きの「だるまさん」です。この人はとにかくだまされやすいお人好し。
アメリカの留学先で、何もわからないまま奴隷契約書にサインして、お金も巻き上げられて売り飛ばされてしまったんです。そんなこと普通はないですよ。しかも当時まだ14歳だったのに、日本からアメリカに渡る船の中で酒を浴びるように飲んでいたというから、悪ガキでもありました。ネズミを捕まえてこんがり焼いて遊んでいたとか、そういうエピソードがいっぱいあるとんでもない人なんです。
高橋是清は、借金だらけの「借King」でもありました。10代の頃から芸者屋にハマって仕事をクビになり、19才で文部省の職員になったのに牧場経営に手を出して失敗。36才のときには、知り合いにだまされてペルーの鉱山を買わされ、その失敗をカバーするためにまた日本の鉱山を買って失敗して、借金まみれになるんです。
でも、借金で無一文になると、お金があるとき住んでいた大豪邸のそばにある小さい家に移り住んで、貧乏になったら貧乏なりの生活をしていた。見栄を張ったりしないんですね。
そんな人間性が愛された是清は、日本銀行を紹介され、副総裁を18年3ヵ月、総裁を1年8ヵ月務めます。その後、首相・犬飼毅から大蔵大臣に任命されると、不況打破のために積極的にお金をばらまき、日本を世界恐慌からいち早く脱出させました。
だまされやすい性格はお気の毒ですけど、財政と政治のプロとしての両刀使いは見事です。
第1位 渋沢栄一
現代の日本社会に不足している「コンセプト」を説いた男
1位はやっぱり渋沢栄一でしたね。従来、日本人が一番好きだったのは福沢諭吉なんです。ところが今は渋沢栄一になった。NHK大河ドラマ『青天を衝け』や、2024年から1万円の新札が渋沢栄一になる影響もあるのでしょう。でも、これからキャッシュレスの時代がくるから、人気に陰りが見えてくるかな(笑)。
以前、仕事でご一緒したハーバード大学卒の外国人が面白いことを言っていました。「渋沢栄一って、新しいことは何もしていないでしょう? GAFAは今までなかったものをつくって儲けているけど、渋沢栄一はヨーロッパやアメリカにあるものを日本で再現しただけでしょう」と言うわけです。それはまあ、確かにそうかもしれません。
日本人の特性で、オリジナリティには弱いかもしれないけど、海外の事例を真似して再現したり、日本風にアレンジするほうが得意だったんでしょう。
でもね、それよりも渋沢栄一が重視したのは、ビジネスよりもコンセプトですから。「売り手よし、買い手よし、世間よし」で、売る方も買う方もこの商売があってよかったと思えるビジネスの大切さを、『論語と算盤』を書いて説いたわけです。だから、GAFAとは根本的に考え方が違うんですよ。
自分の欲得よりも、社会のために人生を賭けた渋沢栄一のような人が1位になるのは、「持続可能な社会のために資本主義を回していきたい」という世間からのメッセージにも聞こえますね。
きっかけさえあれば、日本史はいつでも学び直せる
『やばい日本史』の監修を引き受けたのは、日本史を学ぶ人の入り口を広げたかったからです。この狙いが当たって、小学生から90代というものすごい幅広い読者の方から反響をいただきました。大事なのは学ぶきっかけなんです。
同じく小学生から大人まで大人気でアニメ化までされた『ねこねこ日本史』も、きっかけ作りに最適な本です。なんせ登場人物の偉人が全員ねこ! かわいさにつられて読みたくなるでしょう。
『マンガでよくわかる ねこねこ日本史 ジュニア版』(実業之日本社)とコラボした動画で、この記事では紹介しきれなかった「やばいネタ」を紹介しているので、ぜひこちらもご覧になってみてください。