ハーバードがコロナ禍のANAが下した「ある決断」に注目する理由Photo:123RF

ハーバードビジネススクールのリンダ・ヒル教授は、今年6月、ANAホールディングスの子会社を事例として取り上げた教材を出版した。目まぐるしい変化に迅速に対応し、イノベーションを創出し続ける組織を作るためには何が必要なのか。コロナ禍で苦境に立たされたリーダーこそ心得ておきたいポイントを解説する。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

ハーバードの教材に
ANA子会社を取り上げた理由

佐藤智恵 ヒル教授はANAホールディングス(以下、ANA)の子会社「avatarin(アバターイン)株式会社」(以下、アバターイン)の事例に注目し、今年6月、ハーバードビジネススクールの教材「Akira Fukabori and Kevin Kajitani at avatarin(A)」を出版しました。アバターインは、遠隔操作ロボットを通じたバーチャル旅行など、世界初の「瞬間移動サービス」を提供している会社です。なぜ、この会社に興味を持ったのですか。

リンダ・ヒル ボストンからアジア各国を訪問するのに、ANAを好んで利用していたこともあり、リーダーシップの観点からANAにはずっと興味を持っていました。偶然にも2019年に深堀昂氏(現アバターインCEO)と知り合う機会があり、彼が推進していたアバター事業について研究することにしたのです。

 私は長らく「集合天才」(Collective Genius=イノベーションを創出するために、一人の天才の才能ではなく、組織メンバー個々の才能を集結させること)をテーマに、継続してイノベーションを創出する企業文化や組織能力を持つ企業や、そうした企業の経営者、リーダーの事例を研究してきました。その研究成果をまとめたのが『ハーバード流 逆転のリーダーシップ』です。

 この本の出版後、新たに興味を持ったのが、「スケーリング・ジーニアス」(Scaling Genius)、つまり、いかにして「集合天才」の規模を大きくしていくか、という点です。

 特に私が知りたかったのが、規模拡大の過程で技術がどのような役割を果たすかということ。そこで自社をより素早く変化に対応できるような組織に変えようとしているリーダーや、イノベーションを推進するためのエコシステム(複数の企業によって構築された、製品やサービスを取り巻く共通の収益環境)を構築しようとしている企業についてのデータを集め始めました。

次ページ以降では、ヒル教授がANAの取り組みに興味を持った理由、ハーバードで議論する内容について聞いています。