詐欺師側の誤算だったのは、男性側が訴訟取り下げを認諾せず、訴訟継続を求めたことだ。さらに男性側は、架空・不当請求であるとして損害賠償と慰謝料を求め反訴した。裁判所も裁判制度を悪用した詐欺の疑いがあるとして、見過ごせなかったのだろう。扱いを簡易裁判所から地方裁判所に移送。少額訴訟ではなく実際に弁論を開くよう期日を指定した。

 まさか、詐欺師側もこの事態は想定していなかっただろう。一切の証拠を提出せず、弁論にも出席しなかった。つまり、逃げたわけだ。裁判所は判決で、当たり前に業者側の訴訟自体を棄却。争点の男性がサイトを利用していないと証言したこと、使った証拠がないことにより「(業者側の訴えは)詐欺行為に該当する可能性が高い」と踏み込んだ。

 さらに男性の慰謝料請求についても、業者側にプライバシーの侵害、支払いの通告書送付などは恐喝行為だったと認定した(ただし、未遂のため減額)。しかし、業者側はトンズラし、支払いはなされなかったとみられる。ただ、判決は、民事訴訟で業者側の詐欺未遂と恐喝未遂の「犯罪」を認めたわけだ。

 この訴訟では、20人近い弁護団が組まれた。弁護団にも「たとえ少額でも、裁判制度を悪用した詐欺を許すわけにいかない」という意図があったのだろう。

「自分はだまされない」と思っている方も、はめられる可能性がある。筆者は架空請求を受けた「気弱な被害者」を演じて、電話したことがある。法的なやりとりをしたので気付いたのか、「テメェ、素人じゃねぇだろ。何が目的だ!」とすごまれた後に電話を切られたが、相手はなかなか法的な知識があった。

「詐欺だな。放っておこう」ではなく、こうしたケースにはくれぐれもご注意いただきたい。