迫る「2025年問題」、企業は「ビジネスケアラー」にどう向き合うべきかイラスト:「オリイジン2019」より

近年、多くの企業が人事戦略として取り組んでいるダイバーシティ(多様性)推進――これは、性別・年齢・国籍・障がいの有無…に関わらず、組織が多様な人材を受け入れてイノベーションを生み出そうとするものだ。多様性のひとつとして、今後、「2025年問題」とともにクローズアップされるのが仕事と介護の両立に取り組む「ビジネスケアラー」の存在である。企業向けに、「従業員の両立準備状況の見える化とオンラインラーニング提供」を行うクラウドツールの展開や、シニア市場のマーケティングリサーチなどを手掛ける株式会社リクシス 代表取締役社長 CEOの佐々木裕子氏へのインタビューをもとに、企業がビジネスケアラーとどう向き合うべきかを考える。(フリーライター 古井一匡、ダイヤモンド社 人材開発編集部)

* 職に就きながら、家族・親族などの介護を行う就労者のこと。「ワーキングケアラー」とも言われるが、本稿では、株式会社リクシスの表記に倣って「ビジネスケアラー」と表記する。

いま、仕事と介護の両立はどうなっているのか?

「2025年問題」とは、2025年以降に戦後のベビーブーム世代(1947年から1949年までの3年間に生まれた「団塊世代」)が75歳以上の後期高齢者になることを指す。厚生労働省の試算では、2019年で約618万人だった団塊世代が75歳以上になることによって、直近*1 で約1870万人の後期高齢者が2040年には約2290万人*2 へと約2割増えるという。これに伴い、要支援・要介護認定者も当然増える。要支援・要介護認定者は、直近で約684万人*3 だが、2040年には約956万人を超えるとする推計もある*4

 企業にとって悩ましいのは、仕事と介護の両立に取り組む「ビジネスケアラー」が急増しそうなことだ。ビジネスケアラーは2017年で約346万人(男性=約151万人、女性=約195万人)とされる*5 。2017年の5年前(2012年)と比較すると約55万人の増加であり、この間、毎年約10万人ペースで増えている計算だ。2017年以降も同じペースで増加しているとすれば、2021年現在で400万人に達していると思われる。そして、これからも、要支援・要介護認定者が増える割合(4割)と同じペースでビジネスケアラーが増えると仮定すれば、2040年には約560万人となる。

*1 総務省統計局「人口推計(2021年7月概算値)」より
*2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)中位仮定」より
*3 厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)令和3年4月分」より
*4 GD Freak「日本の要介護(要支援)認定者数の将来予測(2020年~2045年)」より
*5 総務省「就業構造基本調査(2017年)」より

 つまり、「2025年問題」は、2025年から日本の超高齢化が本番をいよいよ迎え、医療や介護といった社会保障制度に大きなインパクトを与えるほか、多くの企業にとっても従来の「多様性推進」とは次元の異なる課題に直面することを意味する。しかも、それが数十年にわたって続いていくのである。

 こうした状況は前々から予想されており、就労者の仕事と介護の両立に向けて、国も対策を講じてきた。現在、「育児・介護休業法」による主な介護支援制度は図表2のようになっている。多くの企業がこうした制度の導入や整備をはじめ、介護に関する情報提供を目的としたパンフレットなどの作成・配布、相談窓口の設置、各種セミナーの実施など、介護両立支援に向けた施策を進めている。

 しかし、従業員の仕事と介護の両立状況は、ほとんどの企業が正確には理解できていないようだ。株式会社リクシス*6 代表取締役社長 CEOの佐々木裕子氏は、次のように指摘する。

*6 株式会社リクシスは、2016年(平成28年)9月1日創業。本社所在地は東京都港区浜松町。従業員31名(2021年5月6日現在、パート・アルバイト・社外協力含む)。

佐々木 そもそも、仕事と介護を両立するとはどういうことか、多くの企業はその実態が掴めていません。たとえば、介護を理由に会社を辞める「介護離職」ですが、ここ数年は年間10万人ほどで横ばいが続いており、要支援・要介護認定者やビジネスケアラーの増加と比べれば、かなり抑えられていると言ってよいでしょう。一方、介護休業や介護支援といった制度の利用はほとんど進んでいません。つまり、多くのビジネスケアラーは、介護支援制度を使わず、離職することもなく、仕事を続けている現状なのです。

迫る「2025年問題」、企業は「ビジネスケアラー」にどう向き合うべきか

佐々木裕子 Hiroko Sasaki
株式会社リクシス 代表取締役社長 CEO

東京大学法学部卒。日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニーで同社アソシエイトパートナーを務める。マッキンゼー退職後、株式会社チェンジウェーブを立ち上げ、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。変革実現のサポートや変革リーダー育成、個人や組織、社会変革を担いつつ、複数大手企業のダイバーシティ推進委員会有識者委員にも就任。自身の子育てに加え、愛知県在住の80代両親の介護も始まり、2016年株式会社リクシスを酒井穣氏と共に創業。多様性推進の目的と現実を理解しながら、画期的な両立支援の在り方を定義する。