企業が取り組むべきこと、目指すべきことは何か?

 今後、ビジネスケアラーが増えていく状況において、企業経営者や人事担当者はどのように対応していけばいいのだろうか。

 第一は、介護支援と育児支援は別物であるということを明確に認識することだ。法律(「育児・介護休業法」)自体が育児と介護を似た枠組みでとらえている側面がある。しかし、これまで企業が取り組んできた育児支援をそのままなぞるかたちで介護支援を行っても、ビジネスケアラーのニーズとの乖離は広がる一方になりかねない。

佐々木 よく言われることですが、育児は先が見えているし、男性従業員を含めて多くの人に経験があり、社内での会話も弾みます。一方、介護は先が見えないし、ほとんどの人は経験がなく、社内で大っぴらに話すことでもない。その違いを踏まえることが不可欠です。

 第二に、「介護は身内がするもの」という根強い社会通念の存在を踏まえ、企業からの情報発信や面談、社内での会話において、その弊害を払拭することに注力すべきだ。すなわち、「介護はケアマネージャーをはじめ、プロの力を積極的に借りるもの」「介護ではプロを中心にしたチームづくりこそがカギ」というメッセージを繰り返し発信していくのが適切だろう。

佐々木 親の介護は誰もがいずれ直面する“自分ごと”であることを社員全員が自覚するとともに、もしそうなったらどのような選択肢があるのか、特にプロに委ねるための具体的な手続きや選択肢について十分な情報を得ておくことが不可欠です。これを私たちは“エイジングリテラシー”と名付け、企業向けのプログラムとして提供しています。

 第三に、介護にだけ焦点を合わせた支援策ではなく、誰もが柔軟に働ける環境を整えることが重要である。普段から長時間労働や残業が少なく、勤務時間についてもフレキシブルに調整したり、リモートワークを組み合わせられたりすれば、長期の介護休暇や介護休業を取らなくても済むかもしれない。介護を特別な事態とするのではなく、社員一人ひとりが事情に応じて、フレキシブルかつ生産性高く働ける仕組みや環境を整えることが、回り道のようでいて、実は最も効果的なのだ。

佐々木 ビジネスケアラーの中には、20代、30代の人もいます。彼ら彼女らの多くは、主に祖父・祖母のケアをしている50代の両親とともに介護負担を分担しているのです。こうした、若い“孫ケアラー”の存在も、今後、クローズアップされてくるでしょう。

 これから訪れる「大介護時代」におけるダイバーシティ(多様性)推進においては、特定層に焦点を当てるのではなく、全方位的(全従業員向け)でユニバーサル(普遍的)な取り組みが求められるのだろう。