仕事と介護をどうにか両立させているケアラーたち

 リクシスの調査結果では、介護中の管理職の8割以上は支援制度の存在を知りながら、利用している人は5%にも満たない。国の調査(総務省「平成29年就業構造基本調査」)においても、介護休業等の利用率は10%未満にとどまっている。

 ひと足先に取り組みが進んだ「育児支援」では、制度を活用しながら育児と仕事を両立する女性従業員の割合は8割前後になっており、2021年6月の育児・介護休業法の改正では、男性従業員の育児休業取得率(2019年度で7.48%)も2025年までに30%にすべく、見直しが行われた。

 それに対し、介護については支援制度の利用そのものが少なく、離職するケースも抑えられている。そうなると、企業側では「当社では仕事と介護の両立問題はそれほど心配することはないだろう」「人事部として取り組む優先順位は低くてもいいだろう」と判断しがちになる。あるいは、人事部が先手を打った施策を講じようとしても、経営層の理解が得られにくかったりする。

 ビジネスケアラー側からみて、介護離職が少ないことや、介護支援制度をあまり利用しない理由は何なのだろうか。

佐々木 そもそも、自分と家族の生活を維持しつつ、介護にかかる費用も負担するとなると、収入を減らすわけにはいきません。仕事と介護を両立する最大のポイントは「収入を下げないこと」です。そのため、介護離職はもちろん、介護休業などを取得する人も少ないのです。

 会社に知られたくない、周囲に迷惑をかけたくない、自身のキャリアにマイナスの影響が及ぶことを危惧する――といった理由も考えられるが、介護を行っていることを上司や同僚に知られること自体に抵抗感のある人は、実はそれほど多くはない。リクシスの調査では、「介護がはじまった際に上司に相談する」という従業員は5人のうち4人だという。上司に相談しても介護支援制度はあまり利用せず、ビジネスケアラーたちはどうにか仕事と介護の両立に取り組んでいる。そこには当然、精神的・身体的な負荷やストレスもある。

佐々木 私たちの調査では、現在、介護中の管理職のうち、介護にかかる物理的負担や心理的な負担がつらいという割合は57.9%に達します*7 。介護離職に至るケースはまれだとしても、業務における生産性やサステナビリティにネガティブに影響している可能性は高いのではないでしょうか。

*7 株式会社リクシス「仕事」と「介護」の両立実態調査~管理職編(管理職2,332名のデータから読み解く)~より 【調査概要】調査期間:2019年5月~2021年7月 分析対象:仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」を利用した従業員規模500名以上の企業に勤める管理職2332名

 なぜ、こうした状況に陥っているのか? そこには、上司や当人たちも気づいていない「落とし穴」があるようだ。