人事権を武器に政権トップに上り詰めたが、新型コロナウイルス対策に失敗、支持率の低下などで退陣に追い込まれた菅義偉首相。霞が関ににらみを利かせコワモテで鳴らしたが、コロナ対策のカギであるPCR検査の拡大は十分にはできなかった。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
経済優先だった菅義偉首相
ワクチンとPCR検査の成果を検証
菅義偉首相が9月3日、突然の退陣を発表した。さまざまな裏話や今後の総裁選挙をめぐる政局を中心に報道されているが、新型コロナウイルス感染症対応に限って、菅首相の政策を評価してみたい。
菅首相のコロナ対策は全体として、ワクチン接種、PCR検査、医療体制の拡充、治療法の開発、ワクチンパスポートの導入には積極的であった半面、非常事態宣言の発出、Go Toキャンペーンの停止、東京オリンピック・パラリンピックの無観客開催には消極的だったといえるだろう。前者は、経済を悪化させない、そして後者は悪化させるから、政治家として当然のことであったと思う。
ただし、緊急事態宣言の発出でかかる経済コストは数十兆円と莫大だが(原田泰「もし緊急事態宣言が再発令されたら、日本経済はどうなるか」本欄2020.7.8参照)、Go Toキャンペーンの停止やオリンピックの無観客試合は、経済を大して悪化させるものではない。
Go Toキャンペーンはそのための3兆円の予算の分だけ休業支援に回せば良かったし、無観客開催にしても数百億円の損失にしかならない。なぜ菅首相が消極的だったか分からない。
以下、菅首相が積極的であったか、少なくとも消極的でなかった対応策のうち、ワクチンとPCR検査についてだけ書くことにしたい。