世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。
1960年と2010年を比較! オーストラリアから世界経済を見る
本日は、資源大国オーストラリアの統計データから世界経済の動きを見ていきましょう。
さて、オーストラリアの人口が何人かご存じですか? 正解はおよそ2536万人(2019年)です。オーストラリアの貿易統計を把握するためには、まず国内市場が小さいことを知っておく必要があります。
またオーストラリア人の平均年収は5万8118米ドル(2019年)と非常に高くなっています(日本は4万384米ドル)。つまり、オーストラリアは国内市場が小さく、また賃金水準が高いため、海外への工場進出先としての魅力はありません。
さらに、オーストラリアの国土面積は774万㎢(世界6位、日本のおよそ20倍)とかなり広大です。鉱山や炭田が都市部から離れているため、国内輸送がコスト高となり、そこから産出した鉱産資源の利用が難しいのです。
オーストラリアの鉱産資源の産出量をみると、鉄鉱石が世界最大(2018年)、石炭が世界5位(2019年)、ボーキサイトが世界最大(2017年)と鉱産資源に恵まれた国ですが、人口稠密地域が南西部と南東部に偏っているため、これらの活用が困難で、産出した鉱産資源のほとんどを輸出します。
そのためオーストラリアは1人当たりGNIの水準から「先進国」に分類される国ではあるものの、輸出品目の上位を鉱産資源で占めています。
50年間で貿易はどう変わった?
さて、オーストラリアの1960年の主な輸出品と輸出先を見てみましょう。下図を見てください。
1960年当時、オーストラリアは「白豪主義(白人最優先主義とそれにもとづく非白人への排除政策)」を国是としています。
そのため、アジア・太平洋諸国との経済的な結びつきはそれほど強くはありませんでした。旧宗主国であるイギリスが最大の貿易相手国であり、アメリカ合衆国やフランス、イタリア、西ドイツと西側陣営の欧米諸国に加えて、高度経済成長期に突入していた日本が主な輸出相手先でした。
当時の日本は、鉄鋼業や造船業、アルミニウム工業が主力産業でしたので、これらの原燃料をオーストラリアに求めていました。これは現在においても同様です。
1960年のオーストラリアの輸出品目は羊毛や小麦、肉類といった畜産品や農作物が多くを占めていました。元々、オーストラリアはイギリスの流刑植民地であり、1788年、アーサー・フィリップ提督が囚人たちと一緒に羊(毛用のメリノ種)を数十頭連れて、現在のシドニーに上陸したといいます。これがオーストラリアでの羊毛業発展の礎となっていきました。